扉が開かれいつものように遠慮なく挨拶と同時に入ってきたのがオヴェリアちゃん。自室でないのにいつもこんな感じなのである。遠慮や配慮がまるでない。
室内に入り扉の前に立つ彼女。そのにこやかな顔が瞬時に険しく……いや、異様な表情となった。
複雑でいてそれなのに単純そうな真顔。
何も考えてはない表情ではなく反対にあまりにも沢山の事を考えているので、顔がその思考に追いつかないようなそんな表情。
自分でも説明していて矛盾していると思うが、そうとしか言えない不可思議な表情であった。それは俺の目には初めて見ることとなる彼女の顔。初対面時での素っ気なさとは違う冷たさ。
何を思い考えているのは不明だが分かることは一つ、それは決してプラスのではなくマイナスな感情であること。
「叔母様、ずいぶんとお楽しみなようですね」
初めて聞く冷ややかな声。呆れと怒りすら感じられた。
「ああ楽しいな。気のいい仲間と一緒にいるのはとても楽しいものだ」
アグは普通の声で言っているのに、どこか攻撃的な響きであった。
俺は緊張した。なんだか二人が戦いだしそうな雰囲気にも感じられる。
なにが? なにでそんなことに?
あれか? ホリンがいるからか? でもなんで?
「オヴェリア女王陛下。この度の戦いにおきましては」
「ここはそのような場所ではありません。アーダンさんの病室ですよホリン氏」
これもまた初めて聞く声であった。年齢を超越したものの声。それはまるでそのまんま……女王の声で。
「お邪魔をして申し訳ありませんが叔母様。ザクについて少しお話があります」
「おおそうか。分かったではホリン殿も」
「身内での話です」
オヴェリアちゃんがそう言うとホリンの視線がアグからそして俺に向けられた。
なんか、怒ってる? なにその瞳? 黒いよ、黒い。どうした?
通常の三割増しな黒々しさでさっきまでの俺に向けていた澄んで軽やかなものと違う濁った重々しいもの。
これってもしかして俺も出ろと言うこと? そうだよな、俺ってザクのものじゃないし。というかあれかな? さっきのオヴェリアちゃんの怒気ってそのザクに関してのやつでそれで苛々していて、なるほどそういうことにしよう。
「じゃあ俺もホリンと一緒に出て行こうか」
「どこの世界に病室から病人を追い出す見舞客がいますか。あなたはここにいてください」
「だって俺はザクのものでは」
「私の弟子は身内ですよ。変なことを言わないでください。非常識にもほどがありますよ」
そういう理屈? と首を傾げるとより激しい怒気が隣から感じられた。
ホリンの方から放たれてくる漆黒の意思のような何かに俺は慄く。なんで俺はそんな感情を向けられる。怖くて、見られない。
だって俺は何もしていないのに……そんなことをされても。うん? 俺はなんか変なこと言っているような気がするな……さっきまで俺は……
「では失礼いたします。お目にかかれる日にまた」
すぐに元に戻ったようなホリンはそう言いながら席を立つと、オヴェリアちゃんとアグに頭を下げそれから俺にも頭を下げた。
その時に止せば良いのに俺は怖いもの見たさかホリンに目を向けると案の定に目が合ってしまった。この世の底のような暗黒を湛えた瞳を俺は見た。
この人は何をしにきたんだっけ? 刺客として来たのかしら?
混乱しながら俺が彼を視線で見送り扉が閉まると、息を吐きながらオヴェリアちゃんが座った。
ではどんな大事な話が?
ちょっと緊張していると彼女は果物籠からひとつ、さっきとは違う実を取りだし、懐から短刀を取り出し切り出した。
あれ? それはさっきも見たような、と思っているとオヴェリアちゃんは六つに切り分けた。
「さぁ食べましょう」
これを食べながら大事な話をするのだなと思いつつ俺は一つをいただき口に運ぶ。
水気と微かな甘みが口の中に広がる。少しだけ旨いといったところか。
「さっきのものの方が味があったな」
俺が言うとアグが返した。
「美味しかったな」
「それはもちろん」
アグの言葉に俺は反射的に返すとまた彼女は笑う。今日は良く笑う日だ、とてもとても良いことだ。ホリンがいなくなったらすべてうまく行っている。そうなれば良いのにな。
「私はこれで十分に美味しいと思いますけどね」
「それで大事なことってなんだ?」
「これですよ」
普通にそう答えたために俺はよく分からなかった。反応しそこなうとオヴェリアちゃんは逆に意外そうな顔をした。
「身内で同じものを分け与えて一緒に食べるのです。これ以上の何か大事なことはありますか? 無いですよ」
そう言うともう一つの切り身を口の中に入れ噛みそして呑み込んだ。
「そうかもしれないな」
「そうです。私達にそれ以上の大切なこととかあります?」
彼女の言葉に俺は何も返さずもう一つ手に取り二口で食べた。
室内に入り扉の前に立つ彼女。そのにこやかな顔が瞬時に険しく……いや、異様な表情となった。
複雑でいてそれなのに単純そうな真顔。
何も考えてはない表情ではなく反対にあまりにも沢山の事を考えているので、顔がその思考に追いつかないようなそんな表情。
自分でも説明していて矛盾していると思うが、そうとしか言えない不可思議な表情であった。それは俺の目には初めて見ることとなる彼女の顔。初対面時での素っ気なさとは違う冷たさ。
何を思い考えているのは不明だが分かることは一つ、それは決してプラスのではなくマイナスな感情であること。
「叔母様、ずいぶんとお楽しみなようですね」
初めて聞く冷ややかな声。呆れと怒りすら感じられた。
「ああ楽しいな。気のいい仲間と一緒にいるのはとても楽しいものだ」
アグは普通の声で言っているのに、どこか攻撃的な響きであった。
俺は緊張した。なんだか二人が戦いだしそうな雰囲気にも感じられる。
なにが? なにでそんなことに?
あれか? ホリンがいるからか? でもなんで?
「オヴェリア女王陛下。この度の戦いにおきましては」
「ここはそのような場所ではありません。アーダンさんの病室ですよホリン氏」
これもまた初めて聞く声であった。年齢を超越したものの声。それはまるでそのまんま……女王の声で。
「お邪魔をして申し訳ありませんが叔母様。ザクについて少しお話があります」
「おおそうか。分かったではホリン殿も」
「身内での話です」
オヴェリアちゃんがそう言うとホリンの視線がアグからそして俺に向けられた。
なんか、怒ってる? なにその瞳? 黒いよ、黒い。どうした?
通常の三割増しな黒々しさでさっきまでの俺に向けていた澄んで軽やかなものと違う濁った重々しいもの。
これってもしかして俺も出ろと言うこと? そうだよな、俺ってザクのものじゃないし。というかあれかな? さっきのオヴェリアちゃんの怒気ってそのザクに関してのやつでそれで苛々していて、なるほどそういうことにしよう。
「じゃあ俺もホリンと一緒に出て行こうか」
「どこの世界に病室から病人を追い出す見舞客がいますか。あなたはここにいてください」
「だって俺はザクのものでは」
「私の弟子は身内ですよ。変なことを言わないでください。非常識にもほどがありますよ」
そういう理屈? と首を傾げるとより激しい怒気が隣から感じられた。
ホリンの方から放たれてくる漆黒の意思のような何かに俺は慄く。なんで俺はそんな感情を向けられる。怖くて、見られない。
だって俺は何もしていないのに……そんなことをされても。うん? 俺はなんか変なこと言っているような気がするな……さっきまで俺は……
「では失礼いたします。お目にかかれる日にまた」
すぐに元に戻ったようなホリンはそう言いながら席を立つと、オヴェリアちゃんとアグに頭を下げそれから俺にも頭を下げた。
その時に止せば良いのに俺は怖いもの見たさかホリンに目を向けると案の定に目が合ってしまった。この世の底のような暗黒を湛えた瞳を俺は見た。
この人は何をしにきたんだっけ? 刺客として来たのかしら?
混乱しながら俺が彼を視線で見送り扉が閉まると、息を吐きながらオヴェリアちゃんが座った。
ではどんな大事な話が?
ちょっと緊張していると彼女は果物籠からひとつ、さっきとは違う実を取りだし、懐から短刀を取り出し切り出した。
あれ? それはさっきも見たような、と思っているとオヴェリアちゃんは六つに切り分けた。
「さぁ食べましょう」
これを食べながら大事な話をするのだなと思いつつ俺は一つをいただき口に運ぶ。
水気と微かな甘みが口の中に広がる。少しだけ旨いといったところか。
「さっきのものの方が味があったな」
俺が言うとアグが返した。
「美味しかったな」
「それはもちろん」
アグの言葉に俺は反射的に返すとまた彼女は笑う。今日は良く笑う日だ、とてもとても良いことだ。ホリンがいなくなったらすべてうまく行っている。そうなれば良いのにな。
「私はこれで十分に美味しいと思いますけどね」
「それで大事なことってなんだ?」
「これですよ」
普通にそう答えたために俺はよく分からなかった。反応しそこなうとオヴェリアちゃんは逆に意外そうな顔をした。
「身内で同じものを分け与えて一緒に食べるのです。これ以上の何か大事なことはありますか? 無いですよ」
そう言うともう一つの切り身を口の中に入れ噛みそして呑み込んだ。
「そうかもしれないな」
「そうです。私達にそれ以上の大切なこととかあります?」
彼女の言葉に俺は何も返さずもう一つ手に取り二口で食べた。


