アルマが叫んだ。

「謎は全て解けた! これで分かったわ。つまり愛に破れたあんたは彼女に逆恨みし犯行に及んだ、決定的ね」

 ラムザも叫び返した。

「あまりにも短絡的という以前にヤヲさんに失礼にも程があるだろ! 眼の前で言うんじゃない!」

 俺は頷いた。

「いいんだ、否定はしないが、ここはまだ出会ったばかりだしなぁ。結論までにいきなり滝落しすぎる」

「恋に落ちる速さは殺意を抱く速さと一緒よ。両方ともカッとなってそうなっちゃうんだからさ」

 俺達はシガレッツの街のレストランに入っている。

 料理は肉である肉肉肉。この地の名産品であるというキンテツバファローズの肉を土地の香草に付け込み焼いた逸品。

 そしてモロコシとかいう奇妙な黄色い豆から醸造されたとかいう酒。しかし現代社会はこの黄色い豆の力によって動いているというから驚きだ。

 これがしたくて旅行しているかのように二人は肉を食らい酒を浴びるも俺は水を飲んでいる。

 飲むことはできない。やはり酒は生命あるものが飲むに相応しい。

「それにしても御婆様はアグ叔母様の話はあまりなさらなかったな」

「あまり、ね。けれども私にはたまーにしてくれたよ。代々ザク王家って女の王族が案外いないからね。
 今だって私以外に同年代か少し上だっていないしさ。御婆様も大叔母様も数少ない女同士だから仲は良かったんでしょ」

「だいたい二人でセットだったな。部屋は違うがほぼ同室状態で、戦いによる遠征が無ければ二人はいつも一緒だった。
 もっとも俺がオヴェリアちゃんと稽古していたのも、本来ならアグがやるところの代理だったところがあったけど」

「じゃあ大叔母様が帰ってきたからクビになったの? ハハッ破門」

「いや、弟子は弟子のままだった。稽古以外の身の周りの掃除や荷物を調達したり持ったりお茶を作ったり」

「完全に雑夫じゃないですか。良いように使われてまぁ」

 ラムザの訴えに俺は頷いた。

「だから俺は訴えたよ。これは稽古ではないよね、て」

「何を言っているのですかこれは立派な修行です! この修行の意味が分かりませんか? だからあなたは愚弟なのですよ! 師の身の回りの世話をする大切さとその意味に気づくまで続けますので怠けるのは許されませんよ! とか御婆様は返したんでしょ? 目に浮かぶわ」

 アルマの声真似が一言一句に到るまでほぼ同じことに俺は驚くも、そのまま返さずに一呼吸おいてから言った。

「そのようなことを言われたな。よく分からないが続けたからまぁ破門は無く稽古は続いた。
 アグはアグで前線によく出ていたからな。彼女は良く戦っていたよ」

 俺の呟きにラムザはメモを取りだした。

「ここで一度おさらいしておきましょう。剣士アグ・リアス。ザク王家において王の妹でありオヴェリア王女の叔母にあたります。
 ザク脱出の際に王命によって王女の身を護ることとなりその後に勇者ジークの元へ身を寄せます。
 剣の達人であり第一次聖戦において勇者パーティのレギュラーメンバーの一人ですね。ザク剣術で以て敵を斬って斬って斬りまくる戦場の華として高名です」

「御婆様もあと少しで元服して十五歳から前線に出で、剣士アグの横に立つから二人揃って向かうところ敵なしなのよね。
 第一次聖戦はこの叔母と姪による剣士二人の活躍が良いのよねぇ」

 アルマは肉をまた一切れ噛みラムザは酒を口に運ぶ。よく喋りよく食べよく飲むのを俺は水を飲みながら眺めていた。

 二人は己の祖国の英雄二人の話にも酔っていたが何か腑に落ちない。何か、欠けている。もしかして。

「アグは剣士として戦っていたんだよな?」

「なにその言い方? ザクの戦士が剣以外で戦うとかあるわけないでしょ?」

「オヴェリアちゃんと同じことを言っていやがる。するとそういうことか」

「えっ? ではなんです? 剣以外でなにか戦っていたとでも?」

「アグは斧を使っていたぞ」

 アルマとラムザは席を立った。

「あんなブサイクな武器を!」

「どうしてわざわざそんなハンデを」

 同時に異口同音的なことを言い出し俺はまた驚いた。

「だから二人ともオヴェリアちゃんと同じことを言うんじゃない。座って」

 酔いから醒めたような表情な二人に向かって俺が言った。

「ある日に稽古へ行くとあの二人が言い争っていたんだ。
 論点は飛び道具の必要性についてだった」

「いらなーい」
「不必要ですね。そんなことしているなら敵の懐に飛び込んだ方が速いですよ」

 意外と剣については二人の意見は一致しており俺はたじろぐが続けた。

「オヴェリアちゃんもそういうことを言って嫌がっていたけどアグは俺に対して意見を求めたんだ。あなたはどう思うか、と」

「あんたまさか好きな女の歓心を得たいがために魂を売ったんじゃないでしょうね?」

「ザクの剣士としてそれはちょっといただけないかと」

「俺はザクの剣士ではないのだが」

「御婆様の弟子でしょうが! それは必然的にザクの剣士になるのよ! そんなの常識でしょうが!」

「そうですよ! いまさら何になろうとしているのですか!」

 酒か誇りかそれとも両方かで興奮しきっている二人に対して俺は頷くしかなかった。この保守的な若者、実に彼女の孫だなと。

「そっそうだな、うん。でなアグはどうやらの現地部族たちの投げ斧攻撃に苦しめられているようだったんだ。
 彼女は避けながら前に進めたが、周りの者たちに被弾し被害が中々なようでな。だからこちらも牽制的な意味で持っていた方が良いんじゃないかと言っていて」

「それなら持っても良いかもしれませんね」

「まぁ大叔母様がそこまで言うのなら、といったところね」

「なんだ二人ともまるで豹変したかのように意見を変えて」

 アルマが言った。

「だってあんたの言い方じゃまるで剣は斧よりも弱いと聞こえたんだもの。それは有り得ないし」

「その目的もチームプレイ的なものであり、サブウェポン的な扱いであるなら納得ですね」

「でもオヴェリアちゃんはそう聞いても嫌がってな。たぶん自分と違うことをするのが気に入らないんだろうが」

「御婆様っぽいな。だから後世に伝える際にアグ・リアスは自分と同じく剣一本だと伝えたんだろうな」

「あと俺のこともあるだろうな」

「それってなに?」

「さっきの話に戻すと聞かれた俺はな良いと思うと答えたんだ。
 そしたらアグは笑ってな、じゃあ一緒に練習しようとな。俺達はそこからもまた始まった」