「いや、これ、手加減とかしていないですね。本気でやってますよ」
ラムザが言うとアルマが叫んだ。
「しているに決まってるじゃない! これが、あの二人に、勝てるわけないでしょ!」
「いちいち区切らなくていいぞ。俺もそう思うが、でも、あの時の雰囲気はいま考えるとそこそこ本気を出していて」
俺の呟きにアルマが返す。
「アレクがあんたなんかに負けるはずないでしょうが。あーあほんと駄目なやつ! あんたって人の優しさとか分からないし気づかないタイプでしょうね。
それに私わかっちゃった! 御婆様に依頼したのは騎士オルガというよりもアレクとノイスの二人なのよ」
「ということはあの時に訪れたのは噂を聞きつけたというよりかは、成果を確認しに来たということで」
「そうよ、絶対にそう。あの御婆様の無駄のない対応を考えればはじめから計画されていたことよね」
「それだとえらく回りくどいやりかたじゃないのか? 鍛えて欲しいのなら自分達でもできそうなものなのでは」
ラムザは首を捻るがアルマは胸を張った。
「いいえこれが最適解なやりかたよ。もしもあの二人が特訓してやるとか言ってごらんなさい。
このひねくれものが変な遠慮とかコンプレックスを拗らせて、めんどうなことになりそうじゃないの。親切甲斐のない男なんだからさ!
だから全然関係のない異国の人に頼んだ方が良いってことよ。ねっ? そうでしょ?」
話を振られ俺は戸惑うも、頷いた。
「そっそうだな。俺なんかに二人の貴重な時間を使うのは」
「ほぉーら御覧! もうめんどくさい! あんたのそのねじ曲がった性根を理解している二人は御婆様に頼んだのよ。
うちの駄目駄目腐れ縁をちょっと鍛えて欲しいってさ。それで後日にそこそこの手加減でもって対応して、あんたをお情け合格で前線復帰させてくれる。
あぁ偉いわアレクとノイス。真に優しき男たちよ。それに比べてあんたは、ねぇ」
「比べる対象が立派過ぎるんだよ」
「同郷の同い年でしょ! 卑屈になるんじゃないわよ!」
「お前はどっちなんだ」
「うるさいわね。話を戻して一応二人に勝った(仮)わけだけど、それでなに? 俺はあの二人よりも強いんだぜオラオラァッ!
みたいなことをかましてまたしくじったりするんじゃないの?」
「そんなことは思っていない。ちゃんとそのあとにオヴェリアちゃんとの稽古で散々に打ちのめされたから、多分あれはまぐれだったんだなと思ったと。そういう時もあるときはあると」
「矯正を受けていますね。まぁヤヲさんはアルマがなんと言われても強くはなっていたと思いますね。
御婆様の剣を受け続けるとか、それはそのまま後の世における世界最強の戦士の一人の剣を受けたということですし。
それだけで他の戦士の剣は相対的に遅く弱く感じるでしょうからね」
「まぁそこは否定はできないわね。いくらアレクが優れた戦士だとしても御婆様に比べたらそりゃね。
だから比べる対象が悪いのであってあんたよりかはずっと上なのよ。弁えてよ」
「わかってるよ……お前はアレクのなんだなんだよまったく」
俺がうんざりしているとラムザが苦笑いした。
「まぁまぁ、それでえっとですね、勇者隊はその遠征が終わりましたら次なる地であるシガレッツに移動しました。
僕らもいまそこに向かっています」
「あそこはあまり戦いが無くて平和な印象があるわね。一段落がついてちょっとした小休止的な」
「実際はそんなことはないというか、俺にとっては平和ではなかったな。戦ったからあそこは激闘の地ということだ」
「なるほど。後世では軽い小競り合いがあったと記録されているが当の本人たちにとってはそうではなかったと」
「そういうものだな、あっ!」
俺が声をあげると同時に列車が止まり到着と扉が開くと、自身の底から込み上げてくる悲鳴を抑えながら俺はその風景を見る。
多少姿を変えても同じであった。陽の光の具合から空気の匂いそして頬に当たる風の感触。
記憶の扉が次々と開かれていく感覚のなか俺は息を吸いそれから吐く。
「ここは良いところだったよ。とてもね」
「なんだか蒸し暑いじゃないの。グラン・ベルンやエルトシャーとはちょっと違う雰囲気ね」
「ここは特殊な土地だそうで、この季節は特にそうなるようで。いわば春から夏といったところなようです」
「ジーク様の隊がこちらに来たのもこの時期だったと思う。初夏に入ったような気候なんだ。
ここは通過点でもあるが、そういえば……あったあった」
俺が駅の売店に入り店員にある名を告げると箱をひとつもらった。古くてもまだあるものなんだなと安堵しながらそれを見つめる。
掌に収まる小箱であり美しいパッケージデザインが施されている。
「なにそれ?」
追いかけてきたアルマが尋ねた。
「タバコだ。知らないだろ」
「ええっと……ああ聞いたことがありますね。南方のもので葉っぱを乾燥させて丸めて火をつけて吸うものみたいですね」
ラムザが言った。彼が知らないのならかなりマイナーなものとなったのだなと俺は感じる。
「これに火をつけて煙を吸う? お香とはちょっと趣が違うわね。何かの儀式用のアイテムとか?」
「元は儀式のものであったようだが、これはただの嗜好品だ。
ザクにはなさそうだったから物珍しいだろ。早速吸ってみよう」
購入した十本入りのタバコを二人は俺の様子を見ながらたどたどしい手つきで火をつけ真似ながら喫った。
俺は煙と溜息をつくと隣で咳込む声がした。
「うぐっ火事の味が口中に、えっえぐい!」
「あらら。ラムザは駄目かしら?」
ラムザは苦しむもアルマは普通に喫えていた。
「ううむ、ちょっと合わないかもね。涙が出てきた。アルマはどうなんだ?」
「悪くは、ないわね。むしろ良いかも」
「オヴェリアちゃんは最初は咳込んでいたな」
「おっそうなんですか。じゃあその後はもう喫わなくなったの?」
「いや、結構喫っていたな。この地から去る時とか煙草の箱は買えるだけ買っていたよ……もちろん俺の金も使って。
指導料だってね。そうそうこれと出会って以後は指導料は一回一箱になっていた記憶が甦るな」
「アハハッいい気味ね! まぁ安いものじゃない? でもへぇーそうか御婆様も好きだったんだ。なら私も好きになるはずね」
アルマは店内のショーケースを見下ろし煙草の箱を見渡した。
何百種類もあるのだろうが俺は首を傾げる。こんなに沢山増えたのか。昔はもっと少なく覚えられるぐらいであったのに。五十年も経てば当然だが知っているものが全然見当たらない。
「御婆様が吸っていたのはどれ? あれとか?」
「それではない。いまはこんなに種類があるとなると。
さっきのは偶然残っていたようだが昔のはそんなにあまり残っては……」
俺はガラス張りのショーケースをざっと眺めると、はたしてそれにすぐさま出会った。
角のあまり目に付かないところにあるそれ。
さっきはこういったケースを見ずに名前でタバコを注文したのも、それを無意識に避けていたのかもしれないと俺は遅れて感じ取った。
反射的に視線を外すとその先にアルマの翠色の瞳と会った。いつかのように濁った翠。
「これでしょ?」
その指差した先には炎が燃えていた。
俺にはそう見えたがそれは空が燃えているようなパッケージ。
夕焼け色のそれがあり俺はそれに触れることができない。代わりにアルマが手に取り俺の目の前に突きだした。
「これなの?」
「……違う」
「ならなによその反応。御婆様ので無かったのならそんな反応する意味は……」
何かを察したかのようにアルマも黙った。
ラムザは不思議そうな眼つきで二人を見ているとアルマが店員に代金を払いタバコの箱を開け一本口に喫え火をつけた。
「香りを嗅いだ方が良いわね。これは昔と一緒?」
「同じだと思う」
「なら良かった。じゃあ私はこれを喫うことにするわ。そしたら思い出しやすいでしょ」
「だがこれはオヴェリアちゃんのではなく」
「アグ大叔母様の、でしょ?」
アルマは煙を吐きながら俺に目を合わせる。
「記憶から逃げようたって、そうはいかないからね」
ラムザが言うとアルマが叫んだ。
「しているに決まってるじゃない! これが、あの二人に、勝てるわけないでしょ!」
「いちいち区切らなくていいぞ。俺もそう思うが、でも、あの時の雰囲気はいま考えるとそこそこ本気を出していて」
俺の呟きにアルマが返す。
「アレクがあんたなんかに負けるはずないでしょうが。あーあほんと駄目なやつ! あんたって人の優しさとか分からないし気づかないタイプでしょうね。
それに私わかっちゃった! 御婆様に依頼したのは騎士オルガというよりもアレクとノイスの二人なのよ」
「ということはあの時に訪れたのは噂を聞きつけたというよりかは、成果を確認しに来たということで」
「そうよ、絶対にそう。あの御婆様の無駄のない対応を考えればはじめから計画されていたことよね」
「それだとえらく回りくどいやりかたじゃないのか? 鍛えて欲しいのなら自分達でもできそうなものなのでは」
ラムザは首を捻るがアルマは胸を張った。
「いいえこれが最適解なやりかたよ。もしもあの二人が特訓してやるとか言ってごらんなさい。
このひねくれものが変な遠慮とかコンプレックスを拗らせて、めんどうなことになりそうじゃないの。親切甲斐のない男なんだからさ!
だから全然関係のない異国の人に頼んだ方が良いってことよ。ねっ? そうでしょ?」
話を振られ俺は戸惑うも、頷いた。
「そっそうだな。俺なんかに二人の貴重な時間を使うのは」
「ほぉーら御覧! もうめんどくさい! あんたのそのねじ曲がった性根を理解している二人は御婆様に頼んだのよ。
うちの駄目駄目腐れ縁をちょっと鍛えて欲しいってさ。それで後日にそこそこの手加減でもって対応して、あんたをお情け合格で前線復帰させてくれる。
あぁ偉いわアレクとノイス。真に優しき男たちよ。それに比べてあんたは、ねぇ」
「比べる対象が立派過ぎるんだよ」
「同郷の同い年でしょ! 卑屈になるんじゃないわよ!」
「お前はどっちなんだ」
「うるさいわね。話を戻して一応二人に勝った(仮)わけだけど、それでなに? 俺はあの二人よりも強いんだぜオラオラァッ!
みたいなことをかましてまたしくじったりするんじゃないの?」
「そんなことは思っていない。ちゃんとそのあとにオヴェリアちゃんとの稽古で散々に打ちのめされたから、多分あれはまぐれだったんだなと思ったと。そういう時もあるときはあると」
「矯正を受けていますね。まぁヤヲさんはアルマがなんと言われても強くはなっていたと思いますね。
御婆様の剣を受け続けるとか、それはそのまま後の世における世界最強の戦士の一人の剣を受けたということですし。
それだけで他の戦士の剣は相対的に遅く弱く感じるでしょうからね」
「まぁそこは否定はできないわね。いくらアレクが優れた戦士だとしても御婆様に比べたらそりゃね。
だから比べる対象が悪いのであってあんたよりかはずっと上なのよ。弁えてよ」
「わかってるよ……お前はアレクのなんだなんだよまったく」
俺がうんざりしているとラムザが苦笑いした。
「まぁまぁ、それでえっとですね、勇者隊はその遠征が終わりましたら次なる地であるシガレッツに移動しました。
僕らもいまそこに向かっています」
「あそこはあまり戦いが無くて平和な印象があるわね。一段落がついてちょっとした小休止的な」
「実際はそんなことはないというか、俺にとっては平和ではなかったな。戦ったからあそこは激闘の地ということだ」
「なるほど。後世では軽い小競り合いがあったと記録されているが当の本人たちにとってはそうではなかったと」
「そういうものだな、あっ!」
俺が声をあげると同時に列車が止まり到着と扉が開くと、自身の底から込み上げてくる悲鳴を抑えながら俺はその風景を見る。
多少姿を変えても同じであった。陽の光の具合から空気の匂いそして頬に当たる風の感触。
記憶の扉が次々と開かれていく感覚のなか俺は息を吸いそれから吐く。
「ここは良いところだったよ。とてもね」
「なんだか蒸し暑いじゃないの。グラン・ベルンやエルトシャーとはちょっと違う雰囲気ね」
「ここは特殊な土地だそうで、この季節は特にそうなるようで。いわば春から夏といったところなようです」
「ジーク様の隊がこちらに来たのもこの時期だったと思う。初夏に入ったような気候なんだ。
ここは通過点でもあるが、そういえば……あったあった」
俺が駅の売店に入り店員にある名を告げると箱をひとつもらった。古くてもまだあるものなんだなと安堵しながらそれを見つめる。
掌に収まる小箱であり美しいパッケージデザインが施されている。
「なにそれ?」
追いかけてきたアルマが尋ねた。
「タバコだ。知らないだろ」
「ええっと……ああ聞いたことがありますね。南方のもので葉っぱを乾燥させて丸めて火をつけて吸うものみたいですね」
ラムザが言った。彼が知らないのならかなりマイナーなものとなったのだなと俺は感じる。
「これに火をつけて煙を吸う? お香とはちょっと趣が違うわね。何かの儀式用のアイテムとか?」
「元は儀式のものであったようだが、これはただの嗜好品だ。
ザクにはなさそうだったから物珍しいだろ。早速吸ってみよう」
購入した十本入りのタバコを二人は俺の様子を見ながらたどたどしい手つきで火をつけ真似ながら喫った。
俺は煙と溜息をつくと隣で咳込む声がした。
「うぐっ火事の味が口中に、えっえぐい!」
「あらら。ラムザは駄目かしら?」
ラムザは苦しむもアルマは普通に喫えていた。
「ううむ、ちょっと合わないかもね。涙が出てきた。アルマはどうなんだ?」
「悪くは、ないわね。むしろ良いかも」
「オヴェリアちゃんは最初は咳込んでいたな」
「おっそうなんですか。じゃあその後はもう喫わなくなったの?」
「いや、結構喫っていたな。この地から去る時とか煙草の箱は買えるだけ買っていたよ……もちろん俺の金も使って。
指導料だってね。そうそうこれと出会って以後は指導料は一回一箱になっていた記憶が甦るな」
「アハハッいい気味ね! まぁ安いものじゃない? でもへぇーそうか御婆様も好きだったんだ。なら私も好きになるはずね」
アルマは店内のショーケースを見下ろし煙草の箱を見渡した。
何百種類もあるのだろうが俺は首を傾げる。こんなに沢山増えたのか。昔はもっと少なく覚えられるぐらいであったのに。五十年も経てば当然だが知っているものが全然見当たらない。
「御婆様が吸っていたのはどれ? あれとか?」
「それではない。いまはこんなに種類があるとなると。
さっきのは偶然残っていたようだが昔のはそんなにあまり残っては……」
俺はガラス張りのショーケースをざっと眺めると、はたしてそれにすぐさま出会った。
角のあまり目に付かないところにあるそれ。
さっきはこういったケースを見ずに名前でタバコを注文したのも、それを無意識に避けていたのかもしれないと俺は遅れて感じ取った。
反射的に視線を外すとその先にアルマの翠色の瞳と会った。いつかのように濁った翠。
「これでしょ?」
その指差した先には炎が燃えていた。
俺にはそう見えたがそれは空が燃えているようなパッケージ。
夕焼け色のそれがあり俺はそれに触れることができない。代わりにアルマが手に取り俺の目の前に突きだした。
「これなの?」
「……違う」
「ならなによその反応。御婆様ので無かったのならそんな反応する意味は……」
何かを察したかのようにアルマも黙った。
ラムザは不思議そうな眼つきで二人を見ているとアルマが店員に代金を払いタバコの箱を開け一本口に喫え火をつけた。
「香りを嗅いだ方が良いわね。これは昔と一緒?」
「同じだと思う」
「なら良かった。じゃあ私はこれを喫うことにするわ。そしたら思い出しやすいでしょ」
「だがこれはオヴェリアちゃんのではなく」
「アグ大叔母様の、でしょ?」
アルマは煙を吐きながら俺に目を合わせる。
「記憶から逃げようたって、そうはいかないからね」


