「古典的なザク式稽古ね。御婆様の時代だとそれが普通だったんだろうけど私そういうの苦手だったな。
 気付きなさいと言われてもそう簡単に気づかないし、まぁそこが肝心なところだとは分かっているけどさ」

 アルマが首を振るとラムザが言った。

「教えない、というやつですよね。昔の武芸というか習い事及びほとんどそんな感じだったみたいですけど。
 それでヤヲさんはそれに延々と付き合ったということで」

「時間は小一時間ぐらいだがえらく長く感じたものだ。
 まぁ構えてすぐに剣が飛ばされているから実質的には拾いに行って構える時間が大半だけどな。
 何十回かまたは百回かそれぐらいそうなった」

「……御婆様のことはひとまず置いておいて、まずあなたのことだけど、ちょっと弱すぎない? もっと強いはずよ。
 本来のあんたなら、及ばないまでも多少はというところがあってもおかしくないはずなんだけど」

 俺はアルマの言葉に違和感しか覚えたものの黙っているとラムザが反論した。

「おいおいアルマ。相手はあの剣星だぞ」

「いいえ、いくら御婆様がザク剣術の最高傑作であったとしても、それは第二次聖戦の最中に確立されたものであって、第一次聖戦序盤のその頃はまだ十代半ばでしょ? 
 私より少し年下なだけのほぼ同い年よ。強いには強いがそれでもまだまだなはず。
 それなのに芸もなく工夫もなく延々と剣を弾かれるって、あんたは弱すぎといっても過言ではないわ。ますます、疑わしい」

「それは御婆様の稽古に付き合ったためで」

「そこ、違うよね。名目上は御婆様に稽古だけど実質的にこれってあんたの稽古になっていない?」

「ああ、そうだな」

 アルマに指摘に対し俺は頷いた。

「後から振り返ると実際稽古をつけられていたのは俺の方だった。
 あの時は夢中でそんなことを考えることもなかったがな。どうにかして剣を飛ばされないようにして、稽古を成立させないといけないという思いで頭が一杯で。
 そうして無言で茶を呑み終え一日目が終わり、俺はあの構えを忘れぬよう自主練をした明くる日に、また稽古に付き合った」

「今度はうまくいったのでは?」

 ラムザの言葉に俺は首を振った。

「昨日のように弾かれた」

「あーあ……」

 アルマの失笑と嘆息。

「それでも昨日とは少しだけ違った。手に抵抗感が、そして飛んだ剣がちょっと近くだった」

「へぇ……ふーん」

 アルマが言葉少なげに言うとラムザが続けた。

「成果が出ていますね」

「だがその時の俺はそこに気が付かない。なんでだ! と嘆いて自分が昨日よりも力んでいるからと先ず思った。
 俺にとってそんな小さな変化よりも大きな変化を剣が飛ばされないことを願っていたんだ。
 小さなことに気付かない故に大きな変化を逃していたみたいだ。まぁそんなので俺はまた剣を拾いに行くことを続けた。
 昨日のように何度も何十度かあるいは百度も……そして疲労と絶望感のなかでその日に俺はこう言った。逆に自分の方から撃たせてくれないかと」

「あまりに、無謀、過ぎやしないかしら?」

「そう思うか?」

「ここまでの話を聞くとそうなりますね。かなり無茶かと。約束されし敗北感すらあります」

「まぁそうだな。でもそういう時は気が付かないもんだ。あとから気づくが、時にはそういう無謀さや無茶でしか通らない道というものがある。
 俺のその時はあの坂道を駆けて崖に手を掛けた時に続いて、彼女にある意味で挑戦をしたときに次の道に入ったようなものだった。
 あれもまたひとつの試練といえたな」