「あなたは第一次聖戦時から第二次聖戦時にかけて、解放軍のオヴェリア・シャナンを殺害しようと再三にわたり襲撃したことに相違はありませんね?」
「相違は、ない」
俺は椅子に座りながらただ事実を述べている。
自分が戦ったあの戦争は今では第一次聖戦と呼ぶのかと思いながら。
俺は数年ぶりに再開された、新人祈祷師による解呪の儀式によって封印が解かれたとのことであり、こうして裁判を受けているわけだ。
この広い部屋には数少ないながらも聴衆がおりそんな中で俺と裁判長との問答が進んでいく。
しかしこれはいったい如何なる茶番だと俺は思うしかない。
俺は始めからずっと真実のみを話しており、一切の誤魔化しなどはしていない。
するつもりもなく、そちらの望むがままの裁きを待っているだけだというのに、何故このようなことをするのか?
名前もその罪もなにもかも白状しているのに、あなたがたは俺に何を言わせたいのか?
俺がオヴェリアちゃんを殺したともう言ったではないか。
「確認を願いますアーダン・ヤヲ。
あなたは第一次聖戦時において勇者ジークのパーティーの一員であり魔王討伐へ旅に出るも、魔王城の決戦において敵に敗れ混乱のなか、そのまま行方不明になってしまったものであることに相違はありませんね?」
「相違は、ない」
自分はかつてはそのような存在であった。
ジーク様のパーティーの一人。取るに足りない下っ端であっても一員ではあった。
だがしかしそのパーティーはそしてジーク様は……あの戦いで消滅してしまった。
「あなたは公式的には戦死扱いとなっています。
だが実はあなたは行方不明とはならずに違う存在となって皆の前にそしてオヴェリア・シャナンの前に現れていた。
闇に堕ちたかのような異形のものとなって。そう魔王と契約した魔戦士としてです。これに相違はありませんね?」
「相違は、ない」
俺は闇に堕ち魔戦士という存在となり、その後に封印され先ほどに解除されたとのことだ。だがしかし。
「それで何故です? 理由は? 何故あなたはそのような存在になってしまったのです?
魔王と契約をした際のいきさつをお聞かせください」
「記憶にない」
答えると静寂であった議場に驚きによるざわめきの波が立った。
想定外の答えであったのだろう。
しかし自分は何も隠してはいない。なにも、覚えてはいないのだ。
そこに到った経緯が完全に欠落している。
「では今一度確認しますアーダン・ヤヲ。あなたはオヴェリア・シャナンを暗殺しようとしたことについての自覚はある。
けれどもそうなった理由というものが思い出せないとお答えになられるのですか?
そんな奇妙なことがありましょうか。暗殺しようとする理由も分からないまま記憶がないまま闘い、そして目覚め自分が殺したと自白するだなんて、おかしくはありませんか?
洗脳されたとか意思が乗っ取られたとかそういった事情もあるのではありませんか?」
そうだおかしい。けれどもこれが事実なのだ。一点の曇りのない真実そのものがこれなのだ。
そうでなければ……これはここに存在しない。
「俺は嘘は言っていない。記憶にないだけだが、そこには理由があるはずだ。
だがそんなことはどうでもいい。
問題は俺がそちらの女王であるオヴェリアちゃんを暗殺したこと、違うか?
動機や経緯などなんだっていい。結果だけが重要なはずだ」
場のどよめきは消えあるのは俺の言葉の残響のみ。
いい加減うんざりし俺は立ち上がり告げる。
聴衆に裁判長にそして世界に対して。宣言をしなければならない。
「謎などなにも、ない。俺は魔戦士となってオヴェリアちゃんを殺した。
それだけが事実であり、そうであるから俺はここにいる。封印された闇の先にいるんだ。
もういい。これ以上話すことも聞くこともない。俺には死しかなくすぐにでも死刑にしてくれ。
俺に生きている理由などない。俺は生きていてはならないんだ。死ぬために甦ったのなら、もう十分だ」
そう無いのだ。俺はあの日から……記憶の最後の時から、彼女の死から……あの人の死から途切れた記憶。
あの時に俺はもう死んでいる。ここにいるのは死人だ。
どうか再び無に帰してくれ。俺は目蓋を閉じるも耳に裁判長の言葉が侵入してきた。
「……いいえ。話すことも聞くことはまだいくらでもあります。まず最初にアーダン。君はオヴェリアを殺してはいませんよ」
「なんだと!?」
衝撃から目蓋が開くと眼前は光の眩しさに満ち満ちており、そのあまりの光の強さによって何も見えなくなる。
白い世界が広がるも裁判長だけがその顔を見せている。口調が変わった眼鏡をかけたカラスを思わせる痩せ型の老人。
どこか心に引っ掛かりを持たせてくるその表情。だがこの老人を俺は知らない。
「俺が暗殺したのでは?」
呟くもその言葉は届いていた。
「暗殺未遂です。そしていまので分かりましたが君の記憶は確かに欠損が激しいようですね。
では次に伝えますが彼女は、オヴェリアは死去しております」
「相違は、ない」
俺は椅子に座りながらただ事実を述べている。
自分が戦ったあの戦争は今では第一次聖戦と呼ぶのかと思いながら。
俺は数年ぶりに再開された、新人祈祷師による解呪の儀式によって封印が解かれたとのことであり、こうして裁判を受けているわけだ。
この広い部屋には数少ないながらも聴衆がおりそんな中で俺と裁判長との問答が進んでいく。
しかしこれはいったい如何なる茶番だと俺は思うしかない。
俺は始めからずっと真実のみを話しており、一切の誤魔化しなどはしていない。
するつもりもなく、そちらの望むがままの裁きを待っているだけだというのに、何故このようなことをするのか?
名前もその罪もなにもかも白状しているのに、あなたがたは俺に何を言わせたいのか?
俺がオヴェリアちゃんを殺したともう言ったではないか。
「確認を願いますアーダン・ヤヲ。
あなたは第一次聖戦時において勇者ジークのパーティーの一員であり魔王討伐へ旅に出るも、魔王城の決戦において敵に敗れ混乱のなか、そのまま行方不明になってしまったものであることに相違はありませんね?」
「相違は、ない」
自分はかつてはそのような存在であった。
ジーク様のパーティーの一人。取るに足りない下っ端であっても一員ではあった。
だがしかしそのパーティーはそしてジーク様は……あの戦いで消滅してしまった。
「あなたは公式的には戦死扱いとなっています。
だが実はあなたは行方不明とはならずに違う存在となって皆の前にそしてオヴェリア・シャナンの前に現れていた。
闇に堕ちたかのような異形のものとなって。そう魔王と契約した魔戦士としてです。これに相違はありませんね?」
「相違は、ない」
俺は闇に堕ち魔戦士という存在となり、その後に封印され先ほどに解除されたとのことだ。だがしかし。
「それで何故です? 理由は? 何故あなたはそのような存在になってしまったのです?
魔王と契約をした際のいきさつをお聞かせください」
「記憶にない」
答えると静寂であった議場に驚きによるざわめきの波が立った。
想定外の答えであったのだろう。
しかし自分は何も隠してはいない。なにも、覚えてはいないのだ。
そこに到った経緯が完全に欠落している。
「では今一度確認しますアーダン・ヤヲ。あなたはオヴェリア・シャナンを暗殺しようとしたことについての自覚はある。
けれどもそうなった理由というものが思い出せないとお答えになられるのですか?
そんな奇妙なことがありましょうか。暗殺しようとする理由も分からないまま記憶がないまま闘い、そして目覚め自分が殺したと自白するだなんて、おかしくはありませんか?
洗脳されたとか意思が乗っ取られたとかそういった事情もあるのではありませんか?」
そうだおかしい。けれどもこれが事実なのだ。一点の曇りのない真実そのものがこれなのだ。
そうでなければ……これはここに存在しない。
「俺は嘘は言っていない。記憶にないだけだが、そこには理由があるはずだ。
だがそんなことはどうでもいい。
問題は俺がそちらの女王であるオヴェリアちゃんを暗殺したこと、違うか?
動機や経緯などなんだっていい。結果だけが重要なはずだ」
場のどよめきは消えあるのは俺の言葉の残響のみ。
いい加減うんざりし俺は立ち上がり告げる。
聴衆に裁判長にそして世界に対して。宣言をしなければならない。
「謎などなにも、ない。俺は魔戦士となってオヴェリアちゃんを殺した。
それだけが事実であり、そうであるから俺はここにいる。封印された闇の先にいるんだ。
もういい。これ以上話すことも聞くこともない。俺には死しかなくすぐにでも死刑にしてくれ。
俺に生きている理由などない。俺は生きていてはならないんだ。死ぬために甦ったのなら、もう十分だ」
そう無いのだ。俺はあの日から……記憶の最後の時から、彼女の死から……あの人の死から途切れた記憶。
あの時に俺はもう死んでいる。ここにいるのは死人だ。
どうか再び無に帰してくれ。俺は目蓋を閉じるも耳に裁判長の言葉が侵入してきた。
「……いいえ。話すことも聞くことはまだいくらでもあります。まず最初にアーダン。君はオヴェリアを殺してはいませんよ」
「なんだと!?」
衝撃から目蓋が開くと眼前は光の眩しさに満ち満ちており、そのあまりの光の強さによって何も見えなくなる。
白い世界が広がるも裁判長だけがその顔を見せている。口調が変わった眼鏡をかけたカラスを思わせる痩せ型の老人。
どこか心に引っ掛かりを持たせてくるその表情。だがこの老人を俺は知らない。
「俺が暗殺したのでは?」
呟くもその言葉は届いていた。
「暗殺未遂です。そしていまので分かりましたが君の記憶は確かに欠損が激しいようですね。
では次に伝えますが彼女は、オヴェリアは死去しております」


