「なによこれ? あんたの話ってやっぱり変ね。
 これは記憶違いで間違えているどころの話でもなくて悪意ある嘘もついてない? 
 まぁあんたがろくに知識もない人に対してインチキ話をするゲスのろくでなしなら、それはそれで良いんだけど」

「なんだそれ。どうしてこんなに全否定する。
 俺の話は間違えていないし嘘もついていないうえに、インチキもしていないぞ」

 開口一番のアルマの低めの声に対し俺の声は上ずる。
 その言葉が唐突かつあまりにも不当な言いがかりとしか思えず焦った。
 だがアルマは真剣な顔で睨んでくるからもしかして自分は何か間違えたことを言ってしまったのではないか? と感じざるを得ない。

 ここはグラン・ベルン領内を走る線路の車内のなか。俺はラムザに視線を送る。
 助けを求めるものであるが、ラムザは視線を合わせるも何も答えない。

 それどころかその瞳の色は妖しく爛々としだし好機と期待の色で満ち満ちていくように感じられ、俺は逆に目を逸らし正面のアルマの瞳を見る。こっちのほうがまだマシだということか?

 なんだこの二人。不思議な夫婦である。

「あんたさぁ、勇者ジークに対して何か思うところがあるんじゃないの? 
 裏切った元主君に対する謝罪やら居直りやら言い訳といった複雑な心理が混ざりあって、いまのような世にも奇妙な回想となってこの世において甦らせたとか。
 しかも何がおかしいのか自分でも分からないぐらいに自分を真っ先に騙してさ。。
 言っておくけど何も知らない人や子供に対しては誤魔化せたり黙らせたりしてもね、私達には不可能よ。
 ラムザは学者志望だし、私は御婆様の喪に服している三年間は更に勉強していたのよ。特に歴史はよく学んだわけ。
 そうであるからあんたの今の妄言は一切、通じません。ひぇええ恐れ入りました嘘つきましたごめんなさいと言いなさい、はいどうぞ」

 アルマの真っ直ぐな視線に対して俺は考える。

 いったいどういうことだ? 

 俺はいったい何を間違えているんだ?

 確かに記憶には自信が無いどころか欠落していおり、その欠落した記憶を求め埋める旅であるが、それはそこではなくもっと先で、いや、もう元から記憶はぐちゃぐちゃになっているのでは? 

 いまの自分を信じることが困難である、そうだ俺は自分に確信が抱けない。
 ならばとるべき行動は否認ではなくて……

「えっと、確認をしていいか? いまの俺の回想を見直してどこがおかしいのか確かめたいんだけど」

「望むところよ! さぁかかってきなさい!」

 アルマが大声を出しながら胸を張った。
 いや、ぶつかり稽古じゃないだからと俺は激突しないように遠回りから攻める。

「勇者パーティの規模が小さくてジーク様があまり強くないってことか? 
 もっとデカいと伝承されているとか?」

「ぜんっぜん違うしそこじゃない! ほらやっぱり駄目ね。
 肝心なところが分かっていない。根本的なところが欠落しているわけよ! たしかに勇者パーティーが小世帯というのはちょっと驚きだけどそこは話を盛ったと考えれば納得よ。
 あと勇者ジークのサイズはむしろデカすぎるというのが正直な感想よ。屋根より高くない?
 そこはそれでいいわ。勇者は強ければ正義なんだからさ」

「じゃあなんだ? 俺が歓迎されたのが作り話とでもいうのか? 
 あのな、そこまで文句を言われると話が進まないぞ」

「だからそこじゃあない! だいたい勇者ジークが新たな仲間を拒否するとかあるわけないでしょ?
 私がそんなことを言うかもと思うところ、あんたは私のことを馬鹿にしていない? 
 そうでなかったら出てこない発想よこれ!」

「ならどこのことを言ってんだ! はっきりと言え! ここが間違えているとはっきりとな!」

 ほぼ同時に立ち上がり睨みあうとアルマが告げる。

「二点あげるわ! 先ずなんで勇者ジークの言葉を奪っているのよ! 
 次は大悪党フリートをあんなキャラにした上にあろうことか勇者ジークの代弁者にしているところよ!
 一体全体どこをどうしたらこんな話を作れるのか私にはさっぱり分からない!」

「えっ……そこ?」

「そこよそこ!」

 気の抜けた声にアルマは叫ぶがそれは車内に響き渡るのみで徐々に消え去っていった。
 俺は何も言わずに座るとアルマも続いて座った。

 言葉が、ない。アルマは返事を待つが間が出来て奇妙な時を経て、それから俺は言った。

「これは、その……そう伝えられているということか」

「そういうことになりますね」

 俺の呟きの対してラムザが微笑みながら答えた