桜が散る今日のピンクムーン

お昼ぐらいになって、私は帰ろうとする。

「またなー」

「はーい、またね」

玄関で靴を履いて、春に手を振った。

一人で雨の中をぽつりぽつりと歩いていき、横断歩道まで来た。

うわ、怖。気を付けないと。今日の夢を思い出した。

でも大丈夫。ちゃんと確認すればいいだけ。

夢で見た車は、私の前を通り過ぎていった。

よし、もう大丈夫。

私は横断歩道を渡る。

キキィーー!!!

...え?

大丈夫だと思っていた。ちゃんと確認した。

それなのに、右を向いたら猛スピードで走っている車が。

世界がスローモーションに見えた。

なん...で?

車が私の体に触れそうになった時、私は走馬灯を見た。

友達と学校の帰り道を歩いている光景。映画を見た時の一部。朝起きた時の視界。ぼけーっと授業を受けていた時。信号を待っている時。カラオケで歌っている時。

本当に何気ない日常の一部が、一秒二秒ずつぐらいに切り取られて、次々と流れていった。

最後に見たのは、春とピンクムーンを見た昨日。

走馬灯って、実際にあるんだ。

私、死ぬんだ。

今まで生きてきた人生は、亡くなっちゃうんだ。

ガッシャーン!!!

その瞬間、全身に痛みが走った。

何も見えなくなった。


最期に、何故か「桜」と呼ぶ暖かい春の声が聞こえた。