現実を知ったあたしは、空蝉さんだけに捧げた貞操を、みずから捨てた。
あたしがまだ処女だった頃、友人が妊娠した。当時のあたしは、それを心底嫌悪した。後先を考えないセックスは堕落だと思っていた。キモい猿たちに、心の中で中指を立てていた。
あたしは、堕落した。
「……相手は? 喫茶店の男?」
世間話のような口ぶりで尋ねられると、つい数十分前まで顔を合わせていた嵐先輩の唇の感触を思い出した。
あたしは嵐先輩と、キス以上のこともした。
一回じゃない。何度も、何度も。
嵐先輩はあたしのことが好きだった。あたしは、空蝉さんを忘れるために、空いた穴を埋めたかった。利害は絶妙に噛み合っていた。だからあたしは嵐先輩に抱かれた。何度思い返しても、不毛な行為であった。
ベッドの上で何度も告白されて、何度も曖昧に笑って誤魔化した。嵐先輩は何度だってかなしそうな顔をして、それでもあたしを掻き抱いた。
日々垢抜けるあたしを見て、嵐先輩は「そのままでいて」って何度も縋ってきた。だけどあたしは変わった。変わったのは、空蝉さんのせいだった。
王子様とも、嵐先輩とも結ばれることはなく、あたしはひとり、現実を歩いて、何かを諦めながら、惰性で日々を過ごした。お姫様はもうそこにはいなかった。
「彼もだけど、他にも」
「ああ、そう。まあ、おれも他人のこと言えないか」
……意味がまったく異なっている。あたしたちが他の異性とセックスをする理由は明白である。あたしは惰性で、彼は義務であった。


