乙女解剖学



 自分を客観視して、似合う色を探して、自分を少しずつ作り変えていくうちに、痛くてダサい夢見麗は、人並みに垢抜けた夢見麗になった。

 だから、だからこそ。あたしは昔の自分が、嫌いだ。

 夢見がちで、運命論を信じて、占いも好きだったし、どうせハッピーエンドしかたどらないような、くだらない映画ばかりを好んでいたあの頃の自分が、すごく、嫌いだ。

 それを変えたのは、間違いなくあの日だった。運命を呪うきっかけを与えたのは、間違いなく、彼だった。


 目的地に向かう最中、信号待ちをしているとき、隣から楽しそうな会話が聞こえてくる。

 サークルの活動がどうとか、授業の課題がどうとか、好きな人がどうとか。そういう会話をしているようだった。

 元気な話し声に釣られて声の方向をちらり覗き見ると、茶髪の女の子が3人、しきりにはしゃいでいた。

 3人とも、示し合わせたように流行りの形をした安っぽいコートを着て、雑誌のノベルティで見たことのあるトートバッグを抱えて、有名ブランドの靴のデザインを模した、偽物の革靴を履いている。田舎から出てきた大学1年生のファッションだなと、たったひとりで偉そうに品定めをした。自分だって、かつてはその一員だったくせに。

 そのうちの一人が、好きな人に振り向いてもらえないと、残りの二人に相談している。サークルの先輩のセフレになってしまったかもしれない、という話を、人の往来のあるこんな場所で話している。

 ……ばかみたいだ。努力もしないで愛されようだなんて、傲慢すぎる。

 昔の自分を見ているみたいで、吐き気がした。

 信号が青に変わる。できるだけ彼女たちから距離を取るようにして、歩き始めた。





 到着したのは、喫茶店からはすこし歩いたところにある複合ビルだった。高層階には、無料で入れる、こぢんまりとした展望テラスがある。

 中には数組のカップルと、家族連れがいる。顔を突き合わせたカップルの上品な笑い声と、遠くに見える新幹線を指さしてはしゃぐ子どもの声が混じっている。

 たったひとりでそこに足を踏み入れて、端っこの方で、日没が近い景色を眺めた。

 太陽が落ちていく。深く、深く落ちる。地球の裏側まで落ちて、約12時間後には、何食わぬ顔でまた顔を出す。きちんとした周期で、当たり前のように。一度太陽が落ちて、また登れば一日。それが積み重なって、3年。今日もまた沈む。明日はまた登る。もう、飽きていた。変化も何もない日々の中、細く呼吸をする生き方よりも、大胆に溺れて死にたいと思う日もある。

 あたしはずっと、不規則に訪れる何かを待っていた。だから、それを期待してここに来た。



「運命って、信じますか」