男性二人が、あたしと空蝉さんの進行方向を阻むように立つ。だからあたしたちは、立ち止まるしかなくなった。
二人のうち背の高い方が、爬虫類のような大きい目で空蝉さんを見ている。すみずみまで、あますところなく舐め回すような目つきに、気味悪さを覚えた。
「空蝉ミノルさんの息子さんですよねえ?」
「……」
なぜ、この人たちが空蝉さんの、そして空蝉さんのお父さんの名前を知っているのだろう。
……なんだか、いやな予感がする。
心臓がざわついて、指先が震える感覚がした。この人たちがどういう人なのかはわからないけれど、それでも、普通ではない感じがする。
空蝉さんは何も言わずに黙っている。そのうち、背の低い方の男性が痺れを切らしたように言い放った。
「僕達ね、この辺で細々と金融業をやってる者でしてねえ」
ひらり、空蝉さんにチラシ入りのポケットティッシュが手渡された。
赤と黄色の目立つフォントで、3万円から即日融資、という文字が書かれている。
借金、という言葉が頭の中を駆け巡った。それは、この2週間で幾度となく耳にした熟語。空蝉さんのお父さんは生前、たくさんの借金を作ってきて、それを空蝉さんが完済した、と聞いていたけれど。
「ミノルさん、亡くなったでしょう? 彼ねえ、ウチのお得意様でして。急に飛ばれて、こっちも困ってるんですよ」
——空蝉さんのお父さん、まだ借金が残っていたんだ。
ごくり、唾を飲み込んで、空蝉さんを見上げた。彼はいたって冷静で、取り乱しているような様子には見えない。
「あのねえ、そういうふうに黙られると、埒があかないっていうか。あなたか、そこの彼女か、あとは隣の市に住んでいらっしゃる、ミノルさんの元嫁になんとかしてもらうしか」
「……っ!」
空蝉さんの肩が、かすかに震えるのを感じた。
ミノルさんの元嫁。つまりそれは、空蝉さんの、お母さんのことだ。生きていたのか、と驚いたけれど、空蝉さんはお母さんのことを蒸発したと言っただけで、亡くなったとは言っていなかった。
この人たちは、空蝉さんのお父さんが作った借金の返済を求め、帰省した空蝉さんを捕まえた。空蝉さんが返済しないのならば、その魔の手は、空蝉さんのお母さんか、もしくはあたしにふりかかる。
心臓の拍動と全身の緊張に、恐怖、という言葉がラベリングされる。


