乙女解剖学



 ゲームをしましょうよ。の一言からはじまった、ばかげたゲーム。

 あたしを絶望させたら、空蝉さんの勝ち。空蝉さんが勝てば、あたしは運命主義を棄てて、空蝉さんから離れなければならない。

 あたしにとってのそれは、空蝉さんと接点を持つための手段でしかなかった。空蝉さんがあたしを嫌っていたあのとき、あたしを不幸にさせようと空蝉さんが躍起になればなるほど、あたしは彼と関わることを許された。だから、あたしはあんな、ルールの破綻したゲームを提案した。

 もうそんなゲームに、意味なんてない。空蝉さんはもはやあたしを嫌ってはいないだろうし、空蝉さんを無理に繋ぎ止めようとしなくても、空蝉さんはあたしの隣にいてくれる。

 ゲームという大義名分がなくても、あたしは空蝉さんのそばにいるし、空蝉さんもきっと、あたしの側にいてくれる。そんなゲームを続ける意味は、もうない。



「……もう、良いですよ。あんなの、やめにしましょうよ」



 そんなことを言ったとき、空蝉さんに手をぎゅっと握られた。強くなった空蝉さんの手の力は、何かを惜しむように数秒そのままにされたあと、そのあと突然離される。

 だらり、あたしの手が宙ぶらりんになる。



「……あれさ、おれの勝ちみたい」



 駅の入り口となる、開け放されたガラス戸のそばだった。

 見知らぬ中年男性がふたり、煙草を咥えながらこちらを見ている。ぎろり、目つきが鋭くて、立ち姿に威圧感があった。

 普通ではない、ような。今までの人生で感じたことのない、本能的な恐怖を掻き立てられる、ような。



「空蝉真さんですか?」