二人で砂浜に倒れ込んだ。ちょうどあたしが、空蝉さんに覆い被さるような形で。
「……服、汚れるよ」
「べつに、良いんです。空蝉さんがいれば」
「じゃあ、泣かないで」
「空蝉さんだって、泣いてるくせに」
変だな。ほんとうに変だな。あたしたち、何の理由もないくせに、ふたりで泣いてる。子どもみたいだ。
「おれ、この場所にずっと囚われてる。だけど、囚われてる状況に、生き方を見出してた」
「……」
「親父が死んで、母親もいないから。昨日麗が言ったみたいに、おれを縛るものは何もない。だからこそ、なんだ。いまのおれには、なにも残ってない」
砂だらけの手で、空蝉さんの頬に流れる涙を雑に拭った
「でも、死ぬ勇気はないんでしょう。空蝉さん、夢を見たがってるから」
「……」
「あたしの王子様になって。夢の中で、ずっと待ってるから」
その日の夜、空蝉さんはあたしを抱いた。
処女を貫かれる行為に対する恐ろしさは、彼が丁寧にあたしを絆して、名前を呼び合う瞬間の高揚にかき消された。肌と肌を重ねて熱が生まれるたびに、彼のことがよりいっそう、いとしくなった。
痛みは幸福とともに訪れた。
下腹部を貫く鋭い痛みを乗り越えてでも、触れたい何かがあった。
抱き合って、キスをして、またお互いにすこしだけ泣いて、手を繋いで眠った。
明日、あたしたちは元いた街に帰る。


