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次の日、午前中はしっかり睡眠をとり、午後から海に行くことにした。
麗がいちばん、かわいいと思う格好をして、と言われたので、シックで落ち着いた色合いのブラウスを着るか、あるいはくすみピンクの小花柄ワンピースにするかを直前まで悩み、結局手に取ったのは後者、ピンクのワンピースだった。
とびきりかわいい格好をしたかったけれど、アクセサリーをつけるのはなんだか海には場違いな気がして、やめた。
そのかわり、ここ1週間は手を抜きがちだったメイクをしっかりめにして、髪の毛を念入りに、ヘアアイロンで真っ直ぐに伸ばした。
準備ができたあたしたちは、一緒に民宿を出た。
自転車で行くか悩んだけれど、歩いて行くことにした。二人分の体重が乗った自転車を漕いで坂道を登り降りするのがいやだと彼が言ったからだった。いやなことはしない方が良いにきまっているので、ふたりで、ゆっくり歩いた。
ゆっくり歩き過ぎて、海に着く頃には日没が近くなっていた。あと1時間もすればきっと、陽のひかりは地平線に消えて、夜を知らせるだろう。
「ここ、砂浜に降りられるんですね」
「うん。そっちまで行ってみようか」
あまり整備のされていない、崩れかけのコンクリートの階段をスカートの裾に気をつけながら一段ずつ下る。降りきると、厚い砂の層にサンダルが沈んだ。
「わ、砂、入ってくる」
「サンダル脱いだら?」
「じゃあ、空蝉さんもスニーカー脱いで」
黒いぺたんこのサンダルから足を抜き取り、それらを砂浜にふわり、放り投げた。足の裏側に、太陽で熱された砂の温度を感じる。夕方に来てよかった。昼間だったらきっと、足の裏を火傷してた。
「ほら、空蝉さんも、はやく」
砂浜を大股で進む。波打ち際でも立ち止まらず、そのまま、くるぶしが浸るくらいまでの位置まで進んでから、空蝉さんの方を振り返る。歩き疲れた足を海水が冷たく癒してくれるから、とてもきもちよかった。
空蝉さんは、あたしと同じように、両足からスニーカーと靴下を脱いで、砂浜に放り投げる。
「ほんと、しょうがないね」
着ていた黒色のスラックスをふくらはぎの位置まで捲り上げてから、彼も同じようにこちらにやってきて、波に足を浸からせた。
「あ、どうしよう。あたし、タオル持ってきてない」
「おれも持ってきてないよ」
「はは、もう、なんでもいいです」


