煌々と照りつける太陽の下で、眼前に見えた灰色を指差した。
「あれは、学校ですか?」
一日でどれくらい遠くまで歩けるか、というくだらない遊戯を始めてから1時間ほど経ったあたりで、この地域の中ではひときわ大きくて目立つ建物が目の前に現れた。
特徴的な色合いの、塗装の剥がれかけた外壁に、窓がたくさんついている建物。大きいグラウンドを備えるところから鑑みるに、これはきっと学校だろうと思い、空蝉さんに尋ねてみる。
「これは、高校。過疎が進んで、数年前に廃校になったはずだけど」
「この土地に、他に高校はあるんですか?」
「んん、ないよ。ここだけ」
「じゃあもしかしたら、空蝉さんがここに行っていた可能性もあるんですね」
がしゃん、とグラウンドと道路を仕切るフェンスを掴んだ。空蝉さんの方を見上げると、彼はすこし切なそうな顔で、高校の建物を見上げている。
空蝉さんは、高卒、といっても、高卒認定資格を取っただけだと言っていた。だから、彼は高校には通っていない。それはきっと本人の意思ではなくて、空蝉さんがどうにもできなかった、環境によるもの。
「ね、入ってみましょうよ。中には誰もいないんでしょう?」
「は、何言ってんの」
「どうせ、何もやることなんてないんだから。高校生ごっこでもしましょう? あたし、空蝉さんと同じ学校だったら良かったなって、たまに思うから」
フェンスの網目に爪先をかけ、2歩分登った。空蝉さんの身長よりもほんの少しだけ背の高いフェンスは、もう少し頑張れば乗り越えられそうだった。
「お転婆だね」
「うるさいです。ほら、空蝉さんも」
かしゃん、かしゃん、とフェンスを揺らしながら、ほんのすこしの恐怖心を乗り越えて、敷地内に入る。
空蝉さんは呆れたような顔をしながらも、あたしに続いてフェンスを登り始めた。ふたりでグラウンドに乗り込むと、悪いことをしている気分になる。だけどほんのすこしだけ、気持ちがよかった。


