乙女解剖学



 空蝉さんの出身の田舎は、本州の北の方にあるらしい。

 ほぼ始発に近い時間に集合し、新幹線に数時間揺られて北上してから、新幹線の乗り換えをして、今度は西に向かう。新幹線の終点で降りると、そこから在来線に乗り換えた。

 電車に揺られ、それもまた乗り換えて、わけのわからない無人駅に到着すると、今度はバスに乗り込んだ。午後のバスに間に合うようにするには、朝早く出発するしかなかったらしいと、そこでやっと聞かされた。

 新幹線に乗る前にあたしが酔い止めを飲んだのを見たからか、空蝉さんは乗り換えをするたびに、酔っていないか、と尋ねてきた。大丈夫、と答えると、空蝉さんはきまっていつも頷いた。それ以外の時間、彼はずっと黙っていた。



 空蝉さんはあたしのことが嫌いで、彼はあたしを遠ざけようとしてた、はすだった。

 空蝉さんから離れたくないあたしは、くだらないゲームを提案した。夢見麗を絶望させるゲーム。空蝉さんがあたしに絶望を与え、あたしが運命主義を棄てたら空蝉さんの勝ち。空蝉さんが勝てば、あたしは空蝉さんの世界からいなくならなければならない。そんな破綻したゲームを、あたしたちはまだ続けてる。

 だから空蝉さんは、何度だってあたしを傷つけようとした。だけど、あたしは何をされても、何度だって空蝉さんに恋をした。



 そんな、いびつな会合を続けたからといって、空蝉さんがあたしのことを好きになるなんてありえないって、そう思ってた。

 だけど、こうやって肩を並べていると、勘違いをしそうになる。

 彼は、地元に一緒に帰る相手にあたしを選んだ。自分が嫌いな相手を、選んだのだ。


 酔わないようにと窓際を譲られたバスの座席から、外を流れる風景を見ていた。外はずっと先まで田んぼが続いている。いつまで経っても変わらぬ風景に辟易とした。あたしは多分、田舎が好きじゃない。



「空蝉さん」

「なあに」

「そういえば、こっちでやることがあるって、言ってたじゃないですか。それって何ですか」



 荷物は軽く、サンダルでも良いがヒールは避けて、とだけ言われた今回の帰省には目的があったらしいけど、あたしはそれをまだ聞かされていなかった。