自分から皺だらけのワンピースを脱ぎ捨てて笑ってみせた。あなたに殺されそうになったあたしは、この程度のことじゃ絶望するわけがない。
そのままの勢いで、下着すらも取り払う。身に纏っていた布切れが全て床に落ちた頃、すでに空蝉さんは心底つまらなそうな顔をしていた。
「ほんと、麗のくせになんなの。幻想に酔いすぎ」
「酔わせてるのはあなたですよ。ほら、話しましょうよ」
服を着たままの空蝉さんの腕を引いて、浴室に足を踏み入れた。
空蝉さんは、水滴の跳ね返りで自分の着ている服が濡れることなんか全く気にしていないようだった。ぬるい湯が出るシャワーをあたしに浴びせる空蝉さんは、まるで愛玩動物の手入れをするみたいだった。
彼はわざと、外向きの丁寧な口調で言葉を放つ。
「お姫さま。話ってなんでしょう」
「……空蝉さんのお仕事を、知ってしまったかもしれなくて」
「ああ、やっぱり?」
「やっぱり、って。つまり、その、風俗みたいなことを?」
きゅ、と空蝉さんがシャワーの蛇口をとめて、柔らかそうなボディタオルにボディソープを含ませる。
「風俗みたいなことっていうか、風俗だね。おれは、娼夫をしてる」
「……」
「どう、お姫様。王子様は、他の女の人を抱くことを生業にしてる。それを知ったら、王子様の幻想はなくなる?」
「今のところ、なくなっていないから困ってるんです」
「ああ、そう。まあでも、そうか。娼夫の汚い手で触られるのが嫌だったら、こうやって身体を預けてるの、おかしいしねえ」
あたしは、まだ空蝉さんのことが好きだった。彼がだれか他の女性を抱いて、それで生活を成り立たせていることに大きなショックを受けているはずなのに、心から嫌いになんかなれなかった。いつ見たって彼は彼のままだった。麗しくて、うつくしくて、最低で、最高な彼のままだった。
背中に泡立てられたボディタオルが滑る。柔らかく、あたたかく、ガラスに触れるかのように丁寧に触れてくる。
職業病という言葉が頭をよぎった。彼はあたしをベランダから突き落とそうとしたり、むりやり咥えさせたりするような横暴をはたらくけど、その裏側にある、あまくてやさしい手つきを隠し切れないのだ。これは普段から彼が、そういうふうに女性に触れているからなのだろう。


