は、と目が覚めたとき、空が薄く光を透かしていた。眠りすぎてしまっていたらしいが、あたしの周りに警察はいない。
なんとなくの感覚で、顔が浮腫んでいるのがわかった。きっとファンデも、アイラインも汚く剥がれている。ワンピースにも皺がついてしまったはずだ。
辛うじて握ったままだったスマートフォンを開くと、充電が4%しかなかった。
最後の電力を振り絞るかのようにメッセージアプリを開く。空蝉さんとのトークを開く。
まだ既読がついていないことを視認して、落胆した。
そのとき、既読、の2文字が、ぱっと表示された。
……たった今、空蝉さんが、あたしのメッセージを見たのだ。
「ほんと、何してんの。お姫さま」
頭上から、快楽中枢に響く低音が落ちてきた。それは、救いでもあって、堕落の足音でもある。
「待っててって、言ったじゃん」
麗しいあなたは、呆れたようにあたしの手を取った。
「ほんと、迷惑だから、身支度整えたらすぐ帰ってね」
泣きたくてたまらなかった。王子様に会えた。聞きたいことはたくさんあるのに、もうこれだけで十分だと思えた。
「空蝉さん」
「なに」
「もう、絶対に嫌いになれないです」
朝帰りとか、何なんですか、とか。これまで何してたんですか、とか。本当に身体を売ってるんですか、とか。聞きたいことはたくさんあったけど、すべての疑問が意識からすべり落ち、空蝉さんの前にひれ伏した。
空蝉さんは黙ったままあたしの手を引いた。


