嵐先輩を外に出して、更衣室でこの間買ったばかりの洋服に身を包んだ。
最近は駅ビルに入っている格安のお店で服を買うことを我慢して、ファッションビルに入っているすこし背伸びしたブランドで服を買うようにしていた。すこしタイトなラインをした、クラシカルなデザインの無地のワンピースを見に纏う。
ネイルは欠けないように、最近マニキュアからセルフジェルに変えた。根本がすこし伸びているのを除けば、爪先は完璧だった。
アイシャドウはブラウン系統に変えた。アクセサリーはまだきちんとしたものを買えていないから、安物だけど。
制服から私服に着替えて裏口から外に出ると、嵐先輩が律儀にあたしを待っていた。帰ってくれても良かったのに。
「……はい。飲み物あげる」
差し出されたのは、ペットボトルの紅茶。あたしが好きな銘柄を、嵐先輩はきちんと覚えてる。
かんたんなお礼の言葉とともにペットボトルを受け取ると、嵐先輩は念を押すようにして言った。
「仮に、空蝉さんがそんな仕事をしてたとして、お姫さまはそれでも、夢から覚めないの?」
あたしが夢見がちだということを、嵐先輩はよく知ってる。よく知ってるからこそ、念を押す。
そしてあわよくば、このひとはお姫さまを王子様から強奪できたら、なんて淡い期待を抱いてる。そんなの、手に取るようにわかるよ。あなたの目はぎらついてる。あたしが空蝉さんに向ける目と、一緒だから。
「それでも、好きだと思います」
「……ああ、そう。でも深追いはやめなね」
嵐先輩はそれだけ言うと、ふいと後ろを向いてどこかに消えてしまった。
それからしばらく歩いて、空蝉さんの住むアパートの近くにやってきた。外から見上げると、空蝉さんの部屋に電気は点いていなかった。インターホンを押しても、反応はない。
〈ごめんなさい。どうしても会いたくて、空蝉さんの家の近くに来てしまいました。会いたいです。ご迷惑でしたら、警察を呼んでください〉
そんなメッセージを空蝉さんに送信して、エントランス横の外壁に寄りかかる。


