閉店までの30分間、駆け込むかのようにふたりだけお客さんが来て、その対応をしていたらいつもよりすこしだけクローズ作業が遅くなった。こういうときに限ってお客さんが来るのはなぜだろう。
マスターはとっくにひとり帰宅してしまって、お店にはあたしと嵐先輩のふたりだけだった。最後は嵐先輩が片付けを手伝ってくれて、あらかた片付いた店内を視認すると、フッと力が抜ける。
「……嵐先輩。どうしよ」
「んー、さっきの?」
「あの、あれって、ほんとに空蝉さんなんですか? 人違いだったり、しないかなって」
「あーあ。そんなに狼狽えるなら、言わなければ良かったかな」
嵐先輩は手を洗いながら、ちらりこちらに視線をやった。
「あれは、空蝉さんで間違いないでしょ。あんなきれいなひと、滅多にいないからねえ。悔しいけどさ」
先輩は洗った手をタオルで拭うと、自分のスマホを取り出して、画面を操作する。
「麗ちゃん。ぼくから聞かされるのと、本人から聞くの。どっちがいいのかな」
「どういうことですか、それ」
「ぼくね、知ってしまったかもしれない」
何を、と尋ねても、変なふうに躱される。仕方ないから、嵐先輩のスマホを上部から掴んだ。先輩はスマホを離さない。
「どうせ、空蝉さんから返信は来ないんです。教えてください」
「……いいの?」
「そんな言い方、ダルです。あたしに嫌われたくなかったら、教えてください」
「はあ。出たよ、麗ちゃんの横暴」
嵐先輩は一度スマホを掴んでいたあたしの手を振り払って、くるり、スマホを反転させてこちらに見せた。
画面いっぱいに表示された、麗しい顔。だけど、王子様の顔とともに付された文字は、最低で最悪だった。これは、想像しうる可能性のなかで、もっとも考えたくない結末だ。
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