いつものようにお風呂を借りて、洗面台に置きっ放しにしているスキンケアセットを使う。女の子が女の子でいるための儀式を終えると、清潔になった身体で嵐先輩のベッドに潜り込んだ。
入れ替わるように嵐先輩がシャワーを浴びに行った。あたしはスマホを触り、空蝉さんのトークルームを開く。
「……!」
返信は来ていない、けれど、既読がついている。
ならば、今、返信を打ってるのだろうか。もしかして、彼は今、あたしとのトークを開いてる?
どぎまぎしてしまって、一旦画面を暗転させる。あたしは嵐先輩が普段使っている羽毛布団の中で身体を縮こませながら、スマホの通知が来ることを願っていた。
だが、それからいつまで経っても、通知は来なかった。あたしからのメッセージに、既読をつけただけだったのだ。平たく言えば、既読無視というやつだ。
「うーららちゃん。身体丸めて、どうしたの。寒い?」
いつの間にか入浴を済ませた嵐先輩がベッドの中にやってきた。身体をずらして、先輩を隣に迎え入れる。
「空蝉さんに送ったメッセージ、既読がついたんです」
「そ。でもきみは、心に決めた王子様がいるくせに他の男の家に寝泊まりするもんね」
「あたし、誰とも付き合ってませんから、咎められる筋合いはない、はず」
「そんなこと言うお姫さまなんて、解釈違いだな」
ぐ、と嵐先輩に布団を引っ張られる。あたしの身体に掛かっていた布団がすこし浮き上がって、肌寒かった。
「先輩。布団、もっとこっちにほしい」
「じゃあ、麗ちゃんがこっちにきてよ」
嵐先輩が腕の中に空間をつくる。あたしの軽さをおちょくるくせに、自分からこうやってあたしを誘い込むの、狡いと思う。


