乙女解剖学



 嵐先輩がチャンネルを変えてくれたとはいえ、あたしの頭の中にはさっきのニュースキャスターの声がちりちりと頭の中を掠めていた。

 なんとなく、口を開いてみる。


「風俗のお客さんに、って、怖いですね」

「さっきのニュース? まあ、物騒だよねえ」


 風俗嬢を好きになった男の人は、彼女から与えられる生温かい言葉に本気になって、だけど彼女は自分と一緒になってくれなくて。だから、彼は彼女をぐさり刺したのだ。

 ぞぞ、と背中が粟立つのを感じる。


「嵐先輩は、こういうのやめてくださいね」

「こういうのって?」

「風俗嬢を刺したりなんかしないでって」

「ぼくのこと、なんだと思ってるの。それを言ったら麗ちゃんもでしょ」

「え、あたしが?」

「今はね、女性用風俗っていうのもあるんだよ。男性キャストに惚れてグサ、とかやめてね」

「そうなんだ。でも、あたしには空蝉さんがいるから、」


 だから、女性用風俗だなんて。

 そう付け足すと、嵐先輩が曖昧に笑った。


「その、空蝉さんを刺さない自信、あるの?」

「……あります」

「そ。じゃあ安心だね」


 ……わけのわからない話をしてしまった気がする。

 嵐先輩の言葉をスルーして、天気予報に耳を傾ける。「明日は雨なんですね」というあたしの言葉に嵐先輩が頷いたから、風俗店の殺人事件の話はそれで終わりになった。