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「それで、あれから何日経ったの?」
喫茶店のレジのクローズ作業をする嵐先輩が呆れたようにあたしを見る。あたしは棚の中に食器を仕舞いながら苦笑いをした。
「もう1週間くらいですかね」
「連絡は?」
「したけど、既読もつかなくて」
嵐先輩は、あたしと空蝉さんの一部始終を知っていた。空蝉さんがたった3日だけ家に居てくれたこと。そして「3日後におれのこと忘れてなければ、連絡しておいで」という言葉だけを残して、それからずっと音信不通であることを。
「あの言葉を信じて、ずっと連絡が返ってくるのを待ってるの?」
「……そうです」
「不憫なお姫さま。王子様を待つついでに、ぼくの家で夕食でもどう?」
「……」
「よく考えなよ。この期間、相手が何をしてたかとか、想像すればすぐわかるでしょうよ」
空蝉さんは、仕事をすると言って、3日過ごしたあたしの家を出て行った。それから、彼とは音沙汰ない。
たった1週間家を空けただけなのに、彼の体温が遠くなった。彼がいなくなったあたしの家は、すこしずつ散らかり始めていた。
女性、という言葉が脳裏にちらつく。彼は今、誰といるのだろうか。彼と連絡がつかない今、何も確かめようはなかった。
「嵐先輩」
「なあに」
「あたし、嵐先輩の好意には報えませんけど、良いんですか」
「それでも良いから誘ってる。穴でもなんでも、埋めにおいでよ。手は出さないし」
ばかみたいだ。ばかみたいだけど、頷いてしまった。これは、あたしに連絡をしない空蝉さんが悪い。


