服についてしまった砂埃を丁寧に払ってから、部屋の中に戻る。こういうとき、すぐに新しい服に着替える几帳面さがあれば可愛げがあるのだろうけど、あいにくあたしはぜんぜん潔癖症じゃない。
室内に戻り掃き出し窓の鍵を閉めたとき、空蝉さんが背後に立って、背中からゆるくあたしを抱きしめた。
突然のスキンシップに、狼狽える。苦いことはあっても甘いことはない関係性に慣れ始めていたからだ。それに彼はさっきまで、あたしを殺そうとしてたのに。
「半分背負うって言ったの、本当?」
「……ほんと、です」
「じゃあさ、お願いがあるんだけど」
「何でしょうか」
「これから3日、泊めてくれない?」
急な話題の方向転換に身体も心もついていかなかった。ていうか、何なのだろう。
……3日も、ここにいるの?
この部屋に? と聞き返すと、彼はうん、と頷いた。いよいよ訳がわからなくなる。
「3日間ここにいることが、半分背負うことになるんですか?」
「うん。色々事情があるの」
嬉しさと、恥ずかしさが大半の感情に、少しだけ疑いが混じっていた。
だけど、後ろから抱きしめられたあたしは自身の興奮を表に出さないようにするのが精一杯で、イエス、以外の返答をする選択肢はなかった。
どろり、下腹部に何かが降りてくる。たったすこし、こんなふうに触れられただけで興奮するあたしは、きっと何かがおかしい。
「……泊まってください」
「うん、ありがとね」
後頭部にキスをされる。
さっきまであたしをベランダから突き落とそうとした男が、今度は家に泊めろ、だなんて、何かがおかしいに決まっている。
空蝉さんは矛盾を許容できない人のはずだ。だとすれば、この行動にはきっと明確な意図があるはず。なのにあたしは空蝉さんのことを全然知らないから、それが何かを想像することすらできない。
だけど、王子様を目の前にしたらそんなことどうでもよくなってしまった。
ねえ、ずっとここに居てよ。


