乙女解剖学



 家庭の話をすこししただけで、嫌い、と言われる理由がわからなくて戸惑った。

 空蝉さんに嫌われているのは知っていた。だけどそれは、家庭環境の話とはまた別の話だろう。

 運命論を信じるあたしが嫌いだって、今まではそういう話だったのに。なぜ急に、こんなことを言われなくちゃいけないの? ふつうに、失礼だと思う。



「今の話で、あたしのどこが嫌になったんですか?」

「元々あなたに対して感じていた嫌悪感に、理由がきちんとついたからかな」

「それは、運命論がどうとかという話ではなくて?」

「ううん。違う。もっと、根本的な話」



 ぶわり、煙が空に舞う。空蝉さんとのキスが煙草の味だったせいで、煙の匂いだけで彼の唇を思い出してしまいそうになった。

 彼からの言葉を待つ。彼は灰を空き缶に落とす。



「おれの最終学歴、何だと思う?」

「……え? そんなの、知ってるわけ、」

「高卒。しかも認定資格」



 それを聞いて、どくん、と心臓が鳴る。

 ……この鼓動は、何だろう。どうして、ぞわぞわとするのだろう。

 違和感? いや、予感? 触れちゃいけないような、そんな、恐ろしい何か。

 煙草の煙から目を離し、もう一度彼を見る。やっぱり綺麗だった。好きだと思った。

 だけど彼はずっと、あたしを冷ややかに見下ろしている。