乙女解剖学



 言われた通り、咥えさせられた煙草を吸ってみた。

 煙を肺にまわす、と言われてもよくわからない。ストローを吸うみたいにしてみたら、喉に煙が引っかかって、苦しくなってすぐに咳き込んだ。



「ご、ほっ、」

「……下手くそ」

「っ、ん、だって、」

「ほら、もう一回」



 待って、という制止は意味をなさずに、もう一度彼に頭を支えられる。スカートの間に空蝉さんの足が自然に入り込んで、感じてはいけない欲が込み上がってきた。苦しさと、期待感が混ざって気が狂いそうだ。


 もう一度煙草が、唇の合間を縫う。

 吸うのがこわい、と思った。また、苦しくなる。喉に煙がまとわりつく感覚。可愛くない匂い。たった一回吸っただけなのに、服にも、髪にも、舌にも煙の味が染み付いてしまった気がした。



「……ひ、ご、ほっ、」

「あーあ」

「く、るしっ」

「どうしようもないね。ほらこっち向いて」



 もういやだ、と思った矢先、唇に触れたのは煙草よりももっと柔らかい感触だった。

 視界の端っこに、立ち上る煙が見えた。だけどそれよりも大きく視界を覆っていたのは、いつも遠くから美しいと眺めていた、彼の顔。

 キスをされていた。

 自分のそれよりもやわらかく感じる空蝉さんの唇は、ほどよく水分を含んでいる。心地良い、と思えた。否、むしろ、ずっとこうしていたいと思えるような。



「っん、う」



 そのとき、唇を割って生暖かい温度が流れ入る。舌を絡めたキスをするのは、これがはじめてだった。