乙女解剖学



「ていうか、麗は最近どうなの?」

「どう、って?」

「ほら、坂本くんと別れたあと、好きな人できたって言ってたじゃん!」



 一花と会話をしながら、学食で妊娠を打ち明けられたあのときと同じように、彼女のセックスを脳内で想像した。

 前よりも想像にはリアリティがあった。薄暗い部屋のなか、裸で脚をM字に大きく開いて、仰向けのカエルみたいなポーズを取る。部屋を薄暗くするのは剃り残した体毛を隠すため。いざ抽送が始まる直前に、ゴムのストックがないことを知った一花は表向きには彼氏を制止するけれど、「出す前に外に出したら平気でしょ」なんて言いくるめられるんだ。その雰囲気に気押された彼女は「まあ、安全日だから」って、自分の排卵日すら正確に把握していないくせに言う。そして一花の方は、まんざらでもないような顔をする。一花は求められている自分が好きなだけ。そして一花の言う「安全日」を信じたアホな彼氏は、結局なにも着けずにそれを挿れる。



「できた、けど」

「でもさー、前も思ったけどその人って大丈夫なの? だって、なんの仕事してるかとか、年齢だってあんまりよくわかってないって言ってたじゃん」



 ひとしきり喘いできもちよくなって、そろそろ爆発する、というときにずるり引き抜かれる欲望にはコンマ1秒の遅れがあって、一花の体内に多少の白濁が注ぎ込まれる。だけど面倒な会話を恐れた彼は「大丈夫、ちゃんと外に出たから」と一花を宥めて、素知らぬ顔でティッシュで入り口を拭う。それを信じるバカな一花は「ほんとお?」と甘ったるい顔で笑って彼にキスをする。



「もっとさ、手頃なところで良い人見つけたら? ほら、旦那の友人紹介できるしさ、どう?」



 避妊失敗カップルの典型。キモい。マジでキモい。全部テンプレート。避妊に失敗して騒いで喚いて、そのくせ「今は子どもを産むことに前向きです」みたいな態度をとって、自分の男を「旦那」と呼んで、周りのカップルと自分たちを差別化する。自分以外の人の事情なんてわかろうともしない。自分が一番で、世界の中心であると勘違いする。あなたは典型。テンプレート。どこかで見たストーリーにどこにでもある結末。

 目の前の一花を見る。



「……あたしは、あたしなりに幸せになりたいから、そういうのは、大丈夫」



 ……すごく泣きたかった。