適当なカフェに入り目の前に腰を下ろした彼女、一花は、言ってしまえば高校からの親友だった。
交友関係を広げるのがあまり得意でないあたしが唯一、「親友」だと声を大にして言える相手。
だけど一花はあたしを置いて、よく馴染んだ苗字まで変えて、知らない人と一緒になった。
「私カフェインは避けなきゃないからさあ、こっちのグレープフルーツジュースにするねえ」
最近は大学の授業を休みがちな彼女に対して、言いたいことも聞きたいこともたくさんあった。
避妊に失敗したって、具体的に何を失敗したの? 大学の単位取れるの? 学費と養育費はどうするの? そういえば相手も学生? 親はなんて言ったの?
全部、聞かなくていいことだってわかってる。だから、自分の思考に制限をかけてきた。そのうち、一花と何を話していいかわからなくなる。負のスパイラル。
高校のときのあたしたちは、長い物には巻かれておくタイプだった。憧れの先輩が行った大学を2人で受験して、2人で落ちて、2人で受かった滑り止めの私大に2人で入学した。
あのとき、ただ昼休みの時間を潰すためだけに話した他愛のない会話が、好きだった。
だけどそれは過去のものになる。
「この前さあ、電車乗ってるとき具合悪くしてたのに、高校生が席譲ってくれなかったの! マジ最悪だよねえ」
「……高校生?」
「そう。ずっと爆睡してんの! こっちは貧血で死にそうなのにさあ? ほんと勘弁してって感じ」
この子、こんな感じだったっけ。
置かれた環境が変わるだけで、こんなに変わるんだっけ。朗らかな子だったと思うのだけれど、何だろう。ホルモンバランスがどうとか? ……だめだ、不躾な想像しかできない。
「しかもさあ、つわりが酷くて欠席した講義の先生がさ、単位出してくれないっていうの。つわりの欠席は仕方ないでしょ? 再履修したくないしほんと無理」
全15コマの講義で許容される欠席数は5。あたしは知ってる。あなたが例の彼氏と遊び呆けたがゆえにした無駄な欠席がなければ、欠席数はオーバーしなかったこと。
彼女の話を聴くたびに、彼女と自分の違いばかりが浮き彫りになる。
こんなこと考えるあたし、最低だ。なのに黒い言葉が頭の中にあふれている。


