性的な関係を持たずして、一緒に隣で眠るだけの関係は、すり減った心を回復させるおまじないみたいなものだった。
空蝉さんの前ではどんなに悠長なことを言っていたって、結局好きな人に嫌悪されることにも、優しくされないことにも耐えられるだけに鈍感ではいられなかった。
だから、何をしても、どう振る舞ってもあたしをあたしのまま受け入れようとする嵐先輩は、まさしく精神安定剤、と言ったところだろうか。
背中に熱を感じる。嵐先輩が後ろからあたしを抱きしめていた。
「さっきまで会ってた人のこと、聞いても良い?」
「差し障りないことなら」
「……あの人のこと、好き?」
返事は一つに決まっていた。
「好き。運命だって、信じたいんです」
「じゃあさ。たとえば。麗ちゃんの運命の人があの男の人だとして、そのうえでぼくの運命の人が麗ちゃんだった場合。これは運命を作った神様のエラー? それとも、僕たちがただの恋慕を運命だと勘違いしているだけ?」
「何を言ってるんですか」
「壊れた運命が存在するか、そもそも運命なんて存在しないか、どっちだと思うかってこと」
「愚問ですね。あたしが後者を選ぶわけないってこと、知ってて訊いてくるなんて、タチが悪いです」
そっか、といって嵐先輩は濁すように笑った。
抱きしめられたまま、後ろから、すう、すう、と寝息が聞こえた。この人はいつでも、どこでもすぐ眠れる人だ。
……こうして誰かに触れられていると空蝉さんのことを思い出す。
剥き出しになったあたしの肌を空蝉さんになぞられたときの記憶。彼の人差し指はおへそを通って、下肢の中心をくすぐった。
思い出すだけで何か、へんな欲が渦巻いてくる。なんだろ、あたしが、あたしじゃないみたいだ。
あたしは嵐先輩に抱きしめられたまま、そっと右手を下肢の中心に当てがう。それからゆっくりと、ゆっくりと、うずうずとしている突起を下着の上からなぞった。
何度も、何度も。
自分が恐ろしい獣になっていく気がした。


