「それで、なんでこんなことになったんでしょうね」
汗ばんだ身体に張り付くブラウスが不快な夏夜、ガードレールに寄りかかりながら隣の男性に向かってぼそりと呟いた。
あたしたちの目線の先にあるのは、繁華街の一角にある、妖しいにおいのするホテルだった。あの中で、あたしの恋人と、隣にいる男性の恋人が獣になっているらしい。
「まあ、おれ的には、まさか夢見さんがここに来てくれるとは思わなかったんですけどね」
「ひとりで待つよりも、ふたりで待った方が傷が浅そうなので」
「おれは、傷の舐め合いをするつもりであなたを呼んだわけじゃないんですよ」
ガードレールに寄りかかって互いの恋人を待つあたしたちは、他人同士の距離感を保ちながら他愛のない会話をする。
こうでもしないと、気が狂いそうだった。
数日前にあたしのSNSにダイレクトメッセージを送ってきた彼、空蝉真さんは、こうして実際に会ってみると想像以上の麗人だった。
高い背丈にすらりと長い手足は、それだけでも十分魅力を感じさせる要素だ。だが神様は二物も三物も与えるらしい。
肌は陶器のように白く、伏し目がちの瞳はアンニュイな雰囲気を醸していた。正面の顔を見ずとも、横顔だけでぐっと心臓をつかまれるような、そんな心地を見る側に与えるくせに、正面から見ればどこかあどけなさを残す儚げな顔つきに惹き込まれる。その麗らかな容姿は、言ってしまえば凶器に近かった。
できるだけ空蝉さんの顔を見ないようにしながら、ぼそりと呟く。
「じゃあ空蝉さんは、どうしてあたしを、今日ここに呼んだんですか」
「ホテルから出たふたりを捕まえて、ツーペア同時に別れ話したら面白いかなって」
「趣味わるいですね」
「浮気する人のほうが趣味悪いでしょうよ」
まあ、それはほんとうにそうなのだけれど。