嵐先輩に用意してもらった夕食を口に運びながら、もう一度、「それで、あたしの髪色、どうしたらいいと思いますか」と尋ねた。
先輩は一度あたしの顔をまじまじと見つめる。
「寒色系?」
「寒色? 青とかですか?」
「はっきりとした青というよりも、紫とか、ネイビーとか」
「ブリーチ必須ですよねえ、それ」
行儀が悪いとわかっていても、片手間にスマホをいじる手が止まらない。「髪色 紫 色落ち」なんていうワードが検索窓に落ちる。
こうしている間に、空蝉さんの言う「お姫様」から、あたしは少しずつ遠ざかっている気がする。だけど仕方ないじゃん。今くらいは、気を抜きたいの。
「あとは、いっそ黒髪に戻すのもアリじゃない? 麗ちゃん、色白だし」
「それもそうですけど。でも、あたしの服の系統からして、ネイビーとか黒髪って、合わなくないですか?」
「まあ、それはねえ? でも結局はさあ、服も髪も、好きなようにするのが一番じゃないの?」
ご馳走様、といって嵐先輩は自分の分の食器を持って立ち上がる。いつの間にかすべて食べ終わったらしい。
「身も蓋もないこと言いますね。あたしにはそういう自分なりの芯もファッションセンスもないから、とりあえず流行りっぽいモノを追いかけて、それっぽい服装をするしかないんですよ。好きなものを好きなだけ身につけても、ちぐはぐになるんですから」
「べつにぼくは、それが悪いとは一言も言ってないよ」
「責任逃れですか?」
「ううん。ぼくはそのままの麗ちゃんが好きだから」
食べたらお風呂入っておいで、と彼はあたしを促す。「好き」だなんて冗談かどうかもわからない発言に惑わされる必要はない。彼のいつもの呼吸だ。


