それに、矛盾だらけなのは空蝉さんだって同じだ。
あたしを嫌っているくせに、あたしに無理やり咥えさせるモノはいつだって勃っている。それに彼は毎度、きちんと達して欲望を吐き出す。意味わかんない。
するり首に回された手がほどける。今日もあたしは、絶望していない。
「……帰ります」
「……」
「あたしを殺したくなったら、いつでも呼んでください」
ひとしきりが終われば、ここには長居せず、すぐに帰る。それがあたしの鉄則だった。これ以上、嫌われることは避けたい。
荷物をまとめていると、テーブルの下に長い黒髪が落ちているのが見えた。その瞬間、空蝉さんがガードレールに寄りかかりながら、虫けらを見るみたいな視線を足元に送っていた光景が思い出される。
……空蝉さんの元恋人。そういえばあの人、茶髪だった。
イコール、この部屋には他の女性も連れ込んでいる、ということ。
だけどあたしは、あなたの部屋にある女性の影には見ないふりをしてあげる。
あたしは、見ないほうがいいモノは、当然見るべきではないことを知ってる。矛盾を見逃すやさしさくらい持っている。自分にも甘く、他人にも甘いから。
全部知らないふりをして、手早く準備を整えてから部屋を後にした。お土産の紙袋は置いていく。あたしはあたしの痕跡を残していく。嫌な女でいいから、会う口実だけを残すの。
その後1駅だけ電車に揺られて向かったのは嵐先輩の家だった。
バイト中に「家で待ってるから」と言った嵐先輩との約束を無下にすることだってできたけれど、自尊心を大きく削られた今のあたしには嵐先輩が必要だった。嵐先輩はあたしの精神安定剤だから。


