乙女解剖学



 首を絞められているので声が出ない。いつものように反論することもできない。

 あたしはただ、空蝉さんが口から溢す呪詛を受け入れるしかなかった。



「麗は、夢見がちな割に自分のことすらおざなりで、矛盾ばかりだろう? スマホのガラスフィルム、割れたまま放置するお姫様がどこにいる? この爪だって、先が欠けてる。その茶髪だって、化粧だって、服だって、似合ってないしちぐはぐだから。それでお姫様とか、笑わせないでね」



 ぐ、とへんな声が出る。胸いっぱいに、どろどろとした不快感が湧き上がってきた。



「地に足をつけずに理想ばかりを追いかけて、なんとなくの雰囲気で崩れかけのお洒落をして、何もせず、運命とか王子様を待って、努力もしない麗なんか、見ているだけで不快。めちゃくちゃに壊して最悪な現実を見せたくなる。はやくおれに呆れていなくなって。そのためならおれは最低になれる」



 全身から羞恥心が湧き上がる。数ヶ月前に駅で落として画面が割れてしまったスマホをそのまま放置していた自分を脳内でおもいきり罵った。

 すこしだけ、何かを掴めた気がする。空蝉さんは夢見がちなあたしを嫌悪しているだけじゃなくて、思想に実態が伴わないあたしを嫌悪しているらしい。

 ……だけどそんなこと、あたしが一番よくわかっている。

 一人暮らしのアパートの部屋を思い出す。シンクに溜まった1週間分の洗い物、洗濯物の山、出し忘れたゴミ袋、どうせすぐ着るからと投げ出したまま本格的に夏になり始め放置されている春物のコート、散らかしたレジュメの束、落ちている髪の毛、埃を被った掃除機、カピカピに渇いたコンタクトの抜け殻、ゴミ。ゴミ。ゴミ。

 知ってる。そんなの、ぜんぜんかわいくないってこと。

 自分でだって、理解できてる。だから理想くらい、綺麗でいたいの。それって、いけないこと?