「え、な、んで」
「なに。もしかして期待した?」
空蝉さんは右手であたしの首に手をかけ、少しずつ力を強めていく。首を絞められている。こんなこと、人生ではじめてのことだから、訳がわからなくなる。
抱かれるかもしれないと期待したのは否定できない。だけど彼はそんなあたしの愚かさを見抜いたように笑う。
なんとなく右手で彼の肩を押し退けようとすると、彼の左手があたしの手を掴んでベッドに押し付けた。手が恋人みたいに繋がれるその瞬間を、あたしは見逃さなかった。
「うつせみ、さん、ちょっと、くるし」
「あなたなんか、抱くわけないだろう? どうせ抱くなら、もっと最低で最悪な処女喪失をセッティングして、あなたの夢見がちな理想もかわいい運命論も全部嬲り殺してあげる」
「ぐ、はっ、」
そんなの、あたしにとっては愛だ。リアリストのあなたができる最大限の愛。それであたしの理想が壊れるなら壊してみせたらいい。
あたたかい。頭がぼうっとする。聴覚が変になって、何も考えられなくなっていく。ただ目の前にある空蝉さんの顔だけがそこにある。ここは理想郷だったのだろうか。
あたしの様子を見た空蝉さんが、手の力を緩める。呼吸口がすこしだけ広がって、ヒュウ、とへんな音が鳴る。
「あなたのこと見てると、いやなこと思い出す」
「いやな、こと?」
「言わないよ。調子に乗られたら面倒だから」
きゅう、と再び締め上げられる。
「おれは、麗みたいなのが一番きらいだ」
涙が出てくる。悲しくないのに、息が苦しいだけで涙が出るだなんて、変なの。
「あなたは、ふつうにただ痛くて、隙ばかりの女だよ。お姫様とは程遠い。おれが王子様とは程遠いのと同じで」
返事はできないけれど、ひたすらに彼を見つめていた。彼はいつも何かを諦めている。あなたは間違いなく、あたしの王子様なのに。


