ベルトをくつろげた空蝉さんはあたしの後頭部を反り立った下腹部へと引き寄せる。
勃っているのがいつも不思議だった。だがこれはきっと、あたしに対して興奮しているわけじゃないのだろう。しいて言うなら、運命論者を手中にした優越感による興奮だろうか。
拒否権のないあたしは目を瞑りながら口の中にそれを押し込める。シャワーを浴びていない男性の味がして、この人も人間なんだなと妙に安心した。
裸で奉仕するあたしの姿は側から見たらきっと滑稽なんだろう。
おかしい、とは思う。あたしは元来、誰とでも身体を重ねる、いわゆる股のゆるい女も、そもそもこういう肉体的な行為も、なにもかも好きじゃない。
だけど、相手が空蝉さんならば、すべてを捧げてもいいと思えた。あたしは簡単に手のひらをくるりと返す、矛盾だらけの女だ。
「こんなことされても、あなたは夢を見続けるの?」
「……っぐ」
「麗ははやくその気持ち悪い運命主義とやらを棄ててキモい現実もちゃんと見たほうがいいよ。そのほうが役に立つから。騙されないから。それでも変わらないならムカつくからここで死んで。おれは王子様でもないしあなたみたいなお姫様もどきを迎え入れるつもりもないから」
頭を思い切り引き寄せられる。喉の奥の粘膜に異物を押し込まれると、興奮よりも不快感が優った。
なのに空蝉さんを嫌いになれないのは何故だろう。むしろ、彼を愛する気持ちは最初よりもますます大きくなっている気がする。
……空蝉さんは寂しそうなのだ。寂しそうだから、構いたくなる。どんなに邪険に扱われても、そばにいたくなる。
ここには物理法則を無視した引力がある。あたしは彼に近づく。彼はあたしが近づくたびにそれを嫌悪する。叩く。攻撃する。だけど彼はあたしが処女なのを知っているから、その一線だけは超えてこない。そんなところが好き。だから好き。また同じように物理法則が歪む。彼に近づく。ずっとこの繰り返しだ。
だから、不毛でも構わなかった。
「……飲んで」
「ふ、くっ、……ん、う」
「美味い?」
「おいしい、です」
「んな訳ないでしょ。嘘つき」
前触れもなく口内に出された白濁を飲み込む。
彼の言うとおり、美味しいわけがない。顔が美しかったとしても人間の出す体液はきちんと体液の味がする。これは人間の飲む代物じゃない。


