空蝉さんの部屋は4階建てマンションの最上階の角に位置している。
建物自体は別に新しくないものの、別に古さも感じない。部屋に近づくにつれ、感じてはいけない欲望が渦巻きそうになって、無心で階段を登りながら段数を数えることに集中した。
空蝉さんが扉を開け、先にあたしを中に促す。彼から受ける優しさはこれがきっと最後だ。あとは、覚悟しなくちゃいけない。
なんの変哲もない1Kの部屋は、特別に広いわけではないけれど、家具が少ない分すっきりとして見える。
「そういえば、これ。お店で余ったお菓子なんですけど、」
「それ後でいいから、こっちきて」
手に持った紙袋を渡そうとすると、空蝉さんは興味なさそうに鍵をテーブルの上に投げ出す。
そのままベッドに腰をかけて、彼はこちらを見た。彼はどうやら、外着のままベッドに上がることに抵抗がないタイプらしい。
荷物を椅子の上に置かせてもらうと、空蝉さんの声が降ってくる。
「ねえ。運命論者の麗ちゃんは、いつになったらおれのこと嫌いになってくれる?」
「……じゃあはやく、あたしのこと絶望させてください」
「汚いところ、見せてるつもりなんだけどな」
「こんなのずぶずぶに甘いです。あたしだってあなたのこと、嫌いになれるならなりたいです。でも無理だから、こうやって不幸を乞うんです」
「拗らせすぎだよ。そんな台詞、どこで覚えたの?」
ベッドに浅く腰掛けた空蝉さんは自分の足元を指さす。
あたしは床に座り込みながら空蝉さんの脚の間に身体を捩じ込んだ。
ああ、いやだ。
彼は純情なままでいようとするあたしを許さない。


