紙袋に商品を詰める動作がゆっくりになる。それは、この時間をすこしでも長くも引き伸ばすための、極めて自己中心的な策略だった。
「制服、似合ってるね」
だから、空蝉さんがそんなことを言ったのはきっと、空いた沈黙を埋めるためだったのだと思う。
気を遣わせてしまった気まずさよりも、会話を広げてくれたことを嬉しく感じてしまう。あまりにも単純だ。
「制服が可愛いから、ここを選んだんです」
「へえ、乙女だねえ」
……だけど、その一言を皮切りに、喉の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
彼の言う「乙女」は、褒め言葉じゃない。
苦笑いで紙袋を手渡すと、今度は表情を少しだけつめたくした空蝉さんが、淡々と、業務連絡みたいな口調に言葉をのせた。
「バイト、何時に上がるの?」
「……あと1時間後くらい、です」
「そ。じゃあそれくらいに迎えに来るから」
空蝉さんは身体を翻して、音もなく姿を消した。気まぐれな猫みたいに、そこに余韻も気配も残さない。
バイト終わりに、彼に会う。それはすごく嬉しいことなのに、最近、悲しいことにもなりつつあった。
真面目さとユーモアが共存できるのと同じで、嬉しい、と悲しい、は共存できる。これは最近になって知ったことだ。つまり、あたしは空蝉さんと会うことに対して、アンビバレントな感情を抱いている。


