停留所に停まっていたタクシーにペットボトルと共に押し込まれても、空蝉さんの身体は決して車内には入ってこなかった。
さっきの会話、冗談じゃなくてもよかったのに。なんて、すこしだけ名残惜しい気持ちを抱く。
「プリンセスは、ちゃんとお家に帰らなきゃね」
ちゃんと水飲むんだよ、というひと言を投げられ、扉が閉まる。あわてて窓を開けた。
「あたしは、運命、信じてますから」
黒髪を風でなびかせた空蝉さんは、呆れるような目でこちらを見つめている。諦めに近い視線に惹き込まれた。
恋愛は、タイミングが全てだと誰かが言っていた。
ならばこのタイミングを、4人の関係が一気に弾けたこのタイミングを、運命と呼ばずに何と呼べば良い?
「3日後におれのこと忘れてなければ、連絡しておいで」
ひらり空蝉さんが背を向ける。その瞬間、タクシーがしずかに走り出した。
徐々に速くなる車体のスピードが、心臓の拍動と呼応していく。
いなくなった元恋人の顔が薄れて、運命がやってきた。


