「空蝉さんは、なぜ、あたしにまた会おうと思ってくれたんですか」
身も蓋もない質問を投げた。あの日あの場所から走り去ったあたしを、どう思っているのか、ずっと聞きたかった。
「……海で、全部を棄てておれと一緒になる覚悟はあるかって聞いたの、覚えてる?」
「おぼえて、ます」
「あの日、麗は返事を迷ったでしょ。だけどおれが呼んだら、迷わずに全部棄てるって言って飛びついてきた。おれと違って、麗には判断を迷うくらい、守るべきものがたくさんあって、それなのに、あなたは泣きそうな顔をしながら、おれだけでいいって、言うの。ばかじゃん。ばかだから、そのままでいてほしかった。あなただけは夢を見たままでいてほしかった。だから麗を一人で帰らせたし、いつか、迎えに行きたかったから」
でも、と空蝉さんが続ける。
「麗は、もう、王子様を待っていないみたいだね」
空蝉さんは、ずっと横暴だ。
3年前のあのときは、勝手に王子様の虚像を背負わせるなと苛立っていたくせに、今更そんなことを言われたって困る。
お姫様は魔法が解けて、ただの平凡な村人Aになりました。
「あなたが愛したお姫様は、運命に呪われて変わってしまったんです。でも、呪いを解くための方法が、一つだけあります」
「……」
「……やり直しましょうよ。あたしが勤めてた喫茶店のオーナーが、新しい店舗を開けたいから、経営を手伝ってくれる人を探しているんですって。空蝉さんが働けるように紹介します。あたしはもうすぐ大学を出て働き始めるし、そうしたら、生活には困らないでしょうから、」
だから、だからと、言葉を重ねる。
「だから、あなたは、あのときのあたしだけの王子様でいて」


