「全部返し終えたら、なんか、空っぽだった」
すべてを話し終えた空蝉さんの視線の先には、すでに沈んでしまった夕陽が微かにその余韻を残していた。もうすぐ、夜がやってくる。
「空っぽ、というのは?」
「この人生、親父がつくった借金を返す人生だった。元凶を作った父親のことも、おれを見捨てた母親のことも恨んでた。だけど、おれはその恨みに生かされてた。働いて得た金を吸い取られるだけの無意味に身を投じることがおれの存在意義だった。いま、それを失ったおれは、何のために生きているのか、わからなくなってる」
彼はただ、愛されたかったのだ。
親子関係、というものは、親が子どもを無条件に愛しているのではなくて、子どもが親を無条件に愛しているのだ、と何かで見たことがある。
空蝉さんは、ずっと、お父さんとお母さんを恨んでいたのかもしれない。けれど彼は、両親を完全に嫌いになれなかった。
だからあの夏、彼は田舎に戻ってお父さんの遺品整理をしたし、別の街で新しい家庭を持つお母さんに迷惑がかからないように、借金を全て、ひとりで背負った。
あたしは、何もできなかった。こわかったから、彼に不幸をぜんぶ押し付けて、逃げた。そんなあたしに、空蝉さんを王子様だと持ち上げることは許されない。
なのに、彼といると、何かを思い出してしまいそうになる。
「おれ、生活のはじまりを望んでた。そのはずだったのに、いつしかそれをはじめるのが怖くなってる」
……あたしは、終わりを望んでる。
不憫な彼の生活が早く終わればいいのにと、ずっと、祈っていた。
なんて、偉そうに。


