「望月さんって海凪のファン?」

唐突に聞かれ、望月紫帆は持っていたペンをノートに走らせる

「あ、違うんだ」

ノート一面に書かれた、違います。の文字

「いや流石に傷つく」

そのノートを覗き込んでいた木葉海凪は、イラッとしたような顔でノートにサインを書いた

「でも海凪がでてたラジオ聴いてたって、」

如月遥陽の言葉を海凪の大声で遮る

「腹減った!!食堂行こうぜ」

望月はノートに、さようなら。と書くと静かに教室から出ていく

「お前仲良くなったの?」

木葉が聞けば、如月は首を振る

「いや、仲良くなってるのは帆夏ちゃんだよ」

実際、篠崎帆夏といる時に少し話す程度の関係だ

「アイツのコミュ力は異常だから」

自分でそう言いながら海凪は気付く

「帆夏って望月と接点なくね」

そんなことか、と如月はため息を着きながら言った

「そういう人だよ、帆夏ちゃんは」

如月は購買で買ったパンとコンビニで買ったサラダを机上に並べる

「食堂行こうって」

「自分の人気に気付けっての」























「じゃあ二人三脚のペアはこれで行きます」

学年種目 二人三脚リレー

一年生は台風の目をやったが、二年生では二人三脚

昔は騎馬戦なんかをやっていたらしいが、
最近では安全一番になっている

「望月さん」

朝日 陽菜乃(あさひ ひなの)が望月紫帆に話しかけたのは、二人三脚のペアが決まった日の放課後だった

「今日一緒に練習しようって話してるんだけど…みんなで」

彼女が指した親指の向こうには何人かの女子生徒が固まっている

素早くノートに書いて、見せれば気味の悪い笑みが返ってくる

望月はわかっていた

それでもしっかりと文字に残した“いいよ”

「じゃあ、屋上で」

1人残った教室で、望月はノートを見つめた





















「じゃあ質問ね、仲良くなるための」

望月は笑顔を崩さなかった

表情が、文字が、自分の言葉の種類だと思っているから

「海凪くんのファンなの?この間遥陽くん達が話してるの、“偶然”聞いたんだけど」

木葉のファンだったら、なんなのか

そんな言葉を飲み込み、直ぐに否定する

「まぁイジメとかダサいことする気はないけどさ」

朝日が静かに望月に寄る

「その“演技”もそろそろイタイよ」

わかっていた

はずだった

どうしようもないくらい、手が震えている

わかっていた

それでも唇を噛み締めて、理解する

やはりこれ(失声症)は病ではないのだ