五月

ここ、秋海棠高校内では体育祭が近づいていた

「進学して一ヶ月。新しいクラスにも慣れてきたであろうこの時期に…体育祭があることを知ってるか?」

無駄に張り切って言い切ったのは、一年A組担任の保健体育科教師、宮林だった

「…ってことで今日は男女混合リレーの走順と個々の種目を決めてもらう。学級委員、あとは頼んだ」

呼ばれた学級委員が前に出て、偶数と奇数を分けながら番号を書いていく

「走りたい場所に名前を書いてください」

妥当かつ手っ取り早い方法に生徒は何も言わず、真ん中を中心に名前を書いていく

一番 二番 二十九番 三十番

が空白のまま残り、書かれていない名前は四人

木葉海凪 如月遥陽 望月紫帆 鈴原心音(すずはら ここね)だけだった

「まず一番は木葉でいいだろ」

学級委員の男子生徒がいつも通り、一番に名前を書く

「じゃあアンカーは如月で」

同じく学級委員の女子生徒も黒板に名前を書く

拒否権がなかった如月遥陽苦笑しながらも言った

「頑張るよ」

そして残った二人に学級委員は顔を見合わせる

「二人とも希望ないの?最初とか最後とか」

首を振る二人に、宮林はボソッと呟いた

「五十メートルタイム、望月7.4 鈴原7.9」

平均と比べ圧倒的な速さに教室内がザワめく

そして全く運動のイメージがついていない望月が意外なことにクラスの女子トップの速さだ

「えっと…じゃあ望月さん二番で、いい?」

その言葉を聞いた鈴原は笑顔で名前を書く

「じゃあ私は二十九で」

カクカクと機械のように頷いた望月を拍手が包み、二人は席についた



「じゃあ次、個人種目。今年は四種目あって」

学級委員の男子生徒、泉川 蓮(いずみかわ れん)が黒板に四つの種目を書き出す

一 ビーチフラッグ  7人
二 二人三脚 8人
三 パン食い競走 7人
四 借人競走 8人

その黒板を欠伸をしながら見つめる生徒が多数

代わり映えない種目に退屈だと思う者が半数以上いるのだろう

先程と同じく、決め最終的に望月と木葉以外の名前が書かれた

「後余ってるの、パンと借人…だけど」

学級委員女子生徒、桜田 陽菜(さくらだ ひな)が気まずそうに問いかける

「やっぱり海凪くんは借人…だよねぇ?」

一軍女子と言われる類の人達が急かす

自分が借人競走になったからと、木葉も同じにして会話を増やそうという考えか

如月はひとり、俯き笑う

「…」

望月は無言でパン食い競走に名前を書いた