脇役だって、恋すれば

「なに言い出そうとしてるんですか、あなたは」
「え、ダメだった!? てっきりもう……」
「こらこらこら、言ってるそばから」

 なにやらふたりにしかわからないやり取りをしている。ついこの間初めて会ったとは思えないくらい、お互いに気を許していそう。

 姉の性格なら誰とでもすぐに打ち解けられるだろうけど……青羽と仲よくしているのは、やっぱり見たくない。

 高校時代、彼が姉に近づこうとしていたなら、内心会えて喜んでいるかもしれない。そんなことまで考えて、黒く濁った感情がむくむくと湧いてくる。

 それをなんとか抑え、顔に出てしまう前にゴタゴタしているふたりに声をかける。

「ごめん。ちょっと私、疲れたから帰るね」
「あっ、待ってお願い、ちょっとだけお邪魔させて!」

 一日の出来事なのかと思うくらいいろいろあって、疲れたのは本当だ。しかし、姉はまだなにか用があるらしく、顎の下で両手を合わせた。

 彼女も忙しいのにせっかくここまで来てくれたので、邪険にはできない。複雑な気持ちを抱きながら頷き、さっきまでの楽しい余韻が完全に消えないうちに、青羽にも笑顔を作ってみせる。

「短い時間だったけど楽しかった。送ってくれてありがと。おやすみ」
「香瑚……」

 彼はなにかを言いたげにしていたものの、私は手を振って背を向けた。姉も悪いと思ったらしく青羽に謝っている。