脇役だって、恋すれば

 社会に出る前の狭い世界で生きていて、大人になりきれない複雑な年頃ならではの悩みだった。当時は本気で悩んでいたのだけれど。

「でも青羽が私の代わりに怒ってくれて、いつも気にかけてくれてたの、すごく嬉しかった。カッコよかったのは青羽だよ。ありがとう」

 ずっと言いそびれていたお礼を、やっと伝えられた。月明かりに照らされる綺麗な瞳がこちらに向き、私も彼を見上げてふわりと微笑む。

 たとえ彼が私を利用していただけだったとしても、あの時感じたときめきは本物で、きっと色褪せはしない。

 視線を絡ませる彼と、ふいに軽く手が当たった。こんなに近くにいることを再確認して、鼓動が早くなる。大人になった今、この手を取ったら新しい関係が始まるだろうか。

 示し合わせたかのように、引き合うように、どちらからともなく手を伸ばす。指先が触れた、その時──。

「あっ、香瑚!」

 夜の静寂を切り裂く声が響き、驚いた私は思わず手を引っ込めた。こちらに駆けよってくる女性を捉え、目を見開く。

「お姉ちゃん……!?」

 軽い外ハネの切りっぱなしボブの髪と、エレガントなワイドパンツの裾を揺らしてやってくるのは、姉の亜瑚。

 私と似ているのに数倍華やかな顔には、変装用の丸い眼鏡をかけている。「よかった~会えて!」と嬉しそうだ。