脇役だって、恋すれば

 目ぼしい相手がいなければ、自分を好きになってくれた人に好意を抱いてもなにも不思議ではない。

 誰かに愛されるって幸せなことだしね、と思いながら缶に口をつける私に、青羽が真剣さを帯びた瞳を向ける。

「……じゃあ、もし社長が告白してきて求愛され続けたら、香瑚もいずれ好きになるのか?」

 問いかけられると同時に、ごくりとビールを飲み込んだ。『ひと目惚れってやつだ』という慶吾さんの声が蘇って、胸がざわめく。

 万が一彼に求愛されたらどうするか。その答えはもう決まっているし、きっと変わらないと言いきれる。

「私は、シンデレラになる気はない」

 きっぱり宣言すると、青羽は意外だったのか目を見張った。

「高級な料理とか、セレブなパーティーとかは非日常のままでいいの。私は今みたいに、ふらっと寄ったお店で手頃なお酒を買って、自然体でいられる相手とだらだら話をするほうが好き」

 口元を緩めて素直な気持ちを話しながら、ふと気づく。

 たとえば、青羽が御曹司で今日みたいなデートをしてくれたとしたら、私はシンデレラヒロインになりたいと望んだかもしれない。彼のそばにいられるなら、どんな大きな困難も乗り越える力が湧いてきただろう。

 つまり、相手のスペックは関係なくて、その人を愛せるかどうかに尽きるのだ。