脇役だって、恋すれば

「来るの早っ」
「社長ならきっと芦ヶ谷を家まで送り届けるだろうと思って、近くのカフェで仕事してた」
「そっか、読み通りだったね。ていうか、仕事してたんだ」
「ご存じの通り、締切延ばしてるんで」

 焦る様子もなく、クールに答える彼にふふっと笑う。よかった……あの日は気まずいまま別れたけれど、普通に話してくれる。

 内心ほっと胸を撫で下ろす私を、新涼くんはちらりとつま先まで見下ろして呟く。

「そんな女らしい格好して……」
「ん?」
「いや、なんでもない」

 なんだか歯切れが悪く、ふいっと目を逸らす彼に首をかしげる。デートだったのだから、それらしくするのは普通では?

 不思議に思っていると、彼は気を取り直すような調子で再びこちらを向いて言う。

「俺も夕飯は食べたから、バーにでも行くか。一杯くらいなら飲める?」

 バーか……。いつもならもちろんOKするところだけれど、今日はもう畏まらない場所へ行きたいというのが本音だ。

 少し思案しつつ周りに目をやると、すぐ近くにいい店があった。

「まだ飲めるしバーもいいんだけど、今日はこっちの気分かな」

 クラフトビールやワインを主に扱っているリカーショップを指差すと、新涼くんはとっても意外そうな顔を見せる。