脇役だって、恋すれば


 時刻は午後八時半を回ったところ。あと数日で六月に入る今日は、涼しい夜風が身体の火照りを冷ましてくれる。

 メッセージのアプリを開いて【疑似デート、終わりました】と入力しながら、このままここで待っていていいのだろうかと、ふと気になった。

 新涼くんは車も持っているけれど、基本電車通勤をしていると言っていた。人間観察をしているとネタが思いついたり、キャラを作る上で参考になるのだそう。

 今日は土曜日だから仕事ではないかもしれないけれど、なんとなく駅で待ち合わせたほうが都合よさそうな気がする。軽く飲むかもしれないし。

 【駅でいいかな?】と続けてメッセージを送信して、マンションから徒歩十分のそこへ向かって歩き始めた。

 慣れた道を歩いて乱れた心が凪いできた頃、【了解。すぐ行くから、危なくないところで待ってて】と返事が来た。大事にしてくれているような気遣いが嬉しくなる。

 駅前の明るく人目につきやすい場所に立っていると、それほど待たずに彼はやってきた。わずかに口元を緩めて、軽く手を挙げる姿を見るだけで胸が締めつけられるも、努めて平静に振る舞う。