脇役だって、恋すれば

 マンションの前に着いて、やっと心がほっとした。ここが地味な私にしっくりくる居場所なのだとつくづく感じながら、シートベルトを外して慶吾さんに何度目かわからないお礼を告げる。

「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。青羽には感じたことを素直に伝えてやってくれ」

 そう言われ、一瞬言葉に詰まる。まさにこれから会うだなんて言えない……と後ろめたい気持ちになりつつ、「はい」と返事をした。

 車を降り、慶吾さんを見送ろうと向き直った時、ウィンドウが下がって思わぬひと言を投げかけられる。

「ちなみに、今日君に言ったことは、どれも演技じゃなくて本心だから」
「へっ?」

 すぐに意味を理解できず、やや前屈みになってまぬけな声を漏らすと、彼は意味深にふっと口角を上げる。

「全部王子じゃなく、須栗慶吾としての言葉ってこと。勘違いしないように」

 数秒固まってから目を見開く私に、彼は甘い笑みを絶やさず「またね。おやすみ」と告げ、ゆっくりと車を発進させた。

 私は何回も瞬きをして、遠ざかっていくテールランプを視界に映す。

 ……全部、本心? じゃあ、『いつでも僕を思い出してほしい』とか、『ひと目惚れってやつだ』というのも?

 疑似デートのはずが、最初から慶吾さんは私を落とそうとしていたってこと!?