脇役だって、恋すれば

「最初に会った時からどうしてか君のことが気になって、早く近づきたいと思うんだよ。たぶん、ひと目惚れってやつだ」

 困ったように微笑まれ、胸がきゅうっと締めつけられた。みるみる顔も火照ってきて縮こまるしかない。

 王子様にこんなふうに言われたら、村娘は信じられないだろうがきっと嬉しいと思う。

 だからって、次のデートを簡単には承諾できない。今回でこれだけ格差を見せつけられると、やっぱり自分とは釣り合わないと感じるだろうから。

 身を引こうとする彼女を、諦められず王子様が追うというのが王道であり自然な流れだと思う。少しずつ距離が縮まり、彼女も自分に自信が持てるようになって、王子様のパートナーに相応しい女性に成長するのだ。

 しかし、私自身は今回で十分だと感じてしまった。素敵すぎる時間を過ごさせてもらって、もう本当に満足なのだ。

 村娘はもっと前向きなはずなので、「心の準備をしたいので、次のデートの約束は少し待ってもらえますか?」と、オブラートに包んでお願いしておく。慶吾さんは案の定快く承諾してくれたのだった。


 ディナークルーズは二時間弱で終わり、地上に戻ってくるとなんだか肩の力が抜けた。

 家に帰るまでが遠足、もとい疑似デートだ。マンションに送ってもらう間も慶吾さんの言動は終始甘く、今日一日で慣れてきたとはいえ、やっぱり〝もう食べられない〟状態になっている。