脇役だって、恋すれば

「あいにく独り身だから安心して。芦ヶ谷さんがしたことないような、極上の体験をさせてあげる。村娘と同じように格差を味わって、リアルな心情を青羽にフィードバックすれば、いいアイデアをひらめくんじゃないか？」

〝極上の体験〟という、妙に色っぽく誘惑的な言葉にドキリとするけれど、彼の目的はなんとなく理解した。

　ゲームのキャラと同じくセレブな疑似体験をして、感じたことを新涼くんに伝えれば参考になるんじゃないか、ということね。

　確かに、お互い今の地位的には合っているし、私も社長とのデートなんて経験がないから、村娘の気持ちに近いものは感じられるかもしれない。

　さすがクリエイティブな仕事をする社長様は斬新な考えをするな、と純粋に感心するも、新涼くんは呆れたような表情になって脱力する。

「またなにを言い出してんですか、この天真爛漫社長は」
「青羽がここから抜け出さないと、会社にとっても危機だろう。そのためにひと肌脱いでやろうと思ってね」
「脱ぎ方間違ってません？」

　ふたりがあれこれ言っている中、私は溶け始めたアイスを見下ろして黙考する。

　少しでも新涼くんのためになるなら、協力したい気持ちはある。考えてみれば、高校の時に助けてもらったお返しすらできていないのだから。