脇役だって、恋すれば

「当たり前でしょう。真面目な芦ヶ谷が、そんなスパイみたいなことできるわけがない。人を騙したりしたらすぐ顔に出るもんな」

 そのひと言と、最後に彼の口角がいたずらっぽく上がったのを見てピンときた。

 高校の休み時間に、クラスの誰かがなぜかトランプを持ってきていて、大人数で遊んだひと時の記憶が蘇る。

「……もしかしてババ抜きのこと?」
「そう、毎回芦ヶ谷が負けてんの。わかりやすすぎて」
「だって、なぜかいつも私にババが回ってくるから~」

 懐かしくて恥ずかしい思い出に両手で顔を覆うと、新涼くんはおかしそうに笑った。

 彼の言う通り、私は嘘がつけない人間なのだと思う。自分では絶対に表情を変えていないつもりなのに、なぜか皆わかるらしいのだ。

「サプライズで担任の誕生日祝おうって皆で用意してた時も、『芦ヶ谷、なにニヤニヤしてんだ』って先生に即行バレそうになってた」
「あれは先生がたまたま私のこと見てたせいだって」

 すっかり忘れていた青春のひとコマたち。新涼くんと話していると、そういえば楽しいこともたくさんあったよなと思い出す。

 なんだか高校時代に戻ったみたいに、気をラクにして笑っていた。